現3歳世代は、阪神JFをアスコリピチェーノが、桜花賞をステレンボッシュが制覇。牡馬勢も、きさらぎ賞をビザンチンドリーム、共同通信杯をジャスティンミラノが制するなど、クラシックに向け役者が揃ってきたノーザンファーム空港牧場。
今年も、川崎洋史場長に期待の2歳馬について語ってもらった。
まずは昨年を振り返ってみて、いかがですか。
空港牧場に関しては、数字は一昨年からほぼ横ばいですね。課題はひと言ではお伝えできないくらい、たくさんあります。
現3歳世代の戦績は、ここまでどのような感想をお持ちですか。
空港ではアスコリピチェーノ、早来からレガレイラが出たように、ノーザンファーム全体で見ても2歳時点は牝馬の活躍が目立ちましたが牡馬も年明けからエンジンがかかってきたので、これからが楽しみですね。
では、この欄で恒例となりました「紹介していただいた馬を振り返ろう」のコーナーに移りたいと思うのですが、ステレンボッシュと、アイビーSを勝利したダノンエアズロックの名前が挙がっていました。
アスコリピチェーノも、この時期から動いていたので、どうして名前は出さなかったのか・・・。反省しています。
しかし、ビザンチンドリームを紹介することは不可能でした(笑)。体質に弱いところがあり、去年の取材時には、まだ坂路入りしていませんでしたから。
12月に新馬勝ち。最短距離で、クラシックへと駒を進めましたね。
素質の高さゆえできたのだと思います。同じように、去年の菊花賞をドゥレッツァ、エリザベス女王杯をブレイディヴェーグで勝つことができました。両馬とも素質は感じていましたが、春のクラシックを無理に使わなかったことが、秋につながったと思っています。当然、使える馬は早期デビューが理想ですが、個々の成長の見極めが重要だと、改めて感じた1年でした。
ドゥレッツァの菊花賞ローテーションも、今後は選択肢の一つになりそうですね。
ディープインパクト産駒の時代が終わって、今はいろいろな種牡馬から次々と素質馬が誕生しているので、個々の特徴を把握することが牧場の大きな仕事だと思います。
ますますPOGの指名馬選びは難しくなりますね(笑)。
昨年紹介した馬の成績を改めて振り返ると、勝ち切れていない馬が多いかなと感じます。タイミングさえあえば、トントンと行けそうな気はしているのですが・・・。
まだまだ結果は分かりませんからね。それでは、今年の2歳馬について話を進めていこうと思うのですが、注目の新種牡馬であるサートゥナーリアは、どのような感想をお持ちですか。
兄たち(エピファネイア、リオンディーズ)とタイプは違うのですが、シーザリオの血統は種牡馬になっても活躍しているので、牧場としての期待は大きいです。実際、産駒の動きを見ても、高い運動能力がしっかりと受け継がれています。
では、具体的に注目馬を教えてください。
ミカリーニョ22(牡)は気難しい血統ではあるのですが、身体能力の高い一族。イストワールファム22(牡)はベガの一族から活躍馬が出ているのが心強いです。牝馬では、ショウナンパンドラ22 、シユーマ22 が良いですね。
ナダル産駒の評判も上々だと聞きました。
1歳の時は、大柄でだらしなさが残るかなと心配していたのですが、調教に行ったら素軽いんですよ。日本のダートはきっと合うと思います。
ダート馬の需要も年々高まっていますよね。
日本のダート馬が海外で活躍している様子をファンの方々は見ていますからね。日本馬に海外のダート適性がないと言われたのは昔のことで、今は高額のレースを狙っていける時代だと思っています。
ナダル産駒で注目馬を教えてください。
すでに500キロを超えているクァンタムミス22(牡)。ダートの中距離で活躍しそうです。あとタイプは異なり、サイズはあまり大きくないのですがフットワークが良いジュベルアリ22(牝)。こちらは、芝でも走るかもしれません。
あと、アドマイヤマーズ産駒に関してはどういう評価でしょうか。
早い時期から動ける馬が多いと思います。運動神経も良いし、気性も落ち着いているので2000mくらいまでは走れるはずです。ポロンナルワ22 (牡)とベルスリーブ22(牡)は、夏にはデビューできそうな動き。全体的にも、堅実に走ってくる種牡馬だと思います。
それでは、そのほかの種牡馬別に話を進めたいと思います。
空港と早来で、それぞれ種牡馬との相性があるんです。獲得賞金の順位を見ると、早来がスワーヴリチャードと相性が良くて、空港はエピファネイアと相性が良い。頭数が多いのにも関わらず、勝率も38%と高いんです。
エピファネイアは、ムラのあるタイプの種牡馬だというイメージがあるだけに、その数字は驚きです。
空港に関しては、堅実タイプの種牡馬です。大きいところを勝つ馬が出てくれば、さらにイメージが変わるのかもしれませんね。3歳でも、先ほど名前が挙がったビザンチンドリームが楽しみですし、牝馬でもアルセナールがクイーンCで2着。近いうちに大きいところを獲れる馬だと思っています。
確かに見直してみると、昨年も推奨していただいた中で、最も多い産駒がエピファネイアでした。
魅力的な馬が揃っていますね。
牝馬の大将格はミッキークイーン22 。2つ上のミッキーゴージャスが愛知杯を制覇しましたが、線の細さが残っていて、本格化はまだ先かと思っていたんです。そういう意味では、妹の完成度はかなり高いです。
素質の高さは日々の動きから感じ取れていますし、何より、ここまで順調にきているのが良いところですね。
エピファネイア産駒に続いて、空港牧場で獲得賞金が多いのが、モーリス産駒のようですね。
勝ち上がり率が良いですね。今年の2歳馬も揃っていると思います。
モーリス産駒は一度負けても、再び盛り返してくるような逞しさがありますよね。
そうですね。新馬戦を勝つと、少し長い距離で戦えるのかを見てみたくなるんです。そこに対応できる馬もいれば、負けてしまう馬もいる。モーリス産駒はそこが分かれ道でもあるんです。でも、マイル戦に戻せば、あっさりと勝ってしまうので、負けてから盛り返すという戦歴になるのだと思います。
そんな逞しいモーリス産駒の注目馬をお願いします。
どの馬も甲乙つけ難いので、五十音順でお伝えします。すべて牡馬で、アイリッシュシー22、アシュリン22、キャリコ22、ブチコ22 の出来が良いですね。
続いて2年目の産駒について教えてください。
それこそ、スワーヴリチャードは早来と相性が良いのですが、空港ではザクイーン22(牡)を挙げます。
あと、サンライズアースがすみれSを勝つなど成績が上がってきたレイデオロ産駒も楽しみですよ。少しゆっくりめですが、ブエナビスタ22(牡)を紹介させてください。
ダービー馬とオークス馬の配合ですから、走ると競馬界全体が盛り上がるでしょうね。
ブエナビスタが早来育成だったこともあって、産駒もずっと早来に入っていたのですが、2年ぶりの牡馬ということもあって、「やらせてもらないか」とお願いしたんです。単純に育成してみたいという衝動からです。
面白いエピソードですね。続いてキズナ産駒についても、お願いします。
今年は特に楽しみなんです。お母さんが2歳女王に輝いたローブティサージュ22(牡)。6月デビューを目指しているのがミスエーニョ22(牝)。空港の牝馬では、3本の指に入る1頭だと思っています。あと、本当に良くなるのは秋になりそうですが、フォエヴァーダーリング22(牝)。英1000ギニーをお母さんが勝っているホームカミングクイーン22(牝)も楽しみですよ。
では、最後にそのほかの種牡馬の中から、注目馬を教えてください。
キタサンブラック産駒から、リアリサトリス22 (牡)、ライジングクロス22(牡)、ダンスウィズキトゥン22(牝)。
ブリックスアンドモルタル産駒なら、兄姉が堅実に走っているチェッキーノ22(牡)。それからアウェイク22(牡)。兄のインビジブルセルフは、新馬戦を勝って故障してしまったのですが、弟も兄に劣らない素質の持ち主です。
ブラックタイド産駒のアパパネ22(牡)、Tapit産駒のSpeedinthruthecity22(牡)、リアルスティール産駒のダストアンドダイヤモンズ22 (牡)も楽しみです。
ダストアンドダイヤモンズ22は、ドウデュースの半弟ですね。
有馬記念の勝利は涙が出るくらい嬉しかったですね。"競馬の良さってこれだよね"と思わせてくれた時間でした。
今年もありがとうございました!
本コンテンツは、黄色のPOG本 「POGの王道」2024-2025(双葉社)の一部を掲載しています。