ノーザンファーム早来
津田朋紀場長インタビュー

「もっと走らせるには馬が"幸せ"になること」

ホープフルSの1、2着馬であるレガレイラとシンエンペラー、アルテミスS覇者のチェルヴィニア。そして、サウジダービーを制覇したフォーエバーヤングなど、数多くの活躍馬を昨年のインタビューで紹介してくれた津田朋紀場長。
今年も、注目の2歳馬についてじっくり聞かせてもらった。

津田場長にお話をお聞きするのは今年で4年目。初めてインタビューさせていただいた時を振り返ると、「牝馬の活躍が目立っており、早来から牡馬のスターホースを出したい」と話されていました。

津田場長

当時は、リスグラシューが引退した後で、ちょうどアーモンドアイが活躍していたタイミングだったかと思います。

その後、イクイノックスという"世界一の評価"を受けた牡馬が誕生し、場長の目標の一つが実現したのではないでしょうか。

津田場長

ありがとうございます。ディープインパクトが亡くなり、後に続く種牡馬を作りたいという気持ちから出た言葉でもあったと思います。

そして昨年のインタビューでは、「ノーザンファームらしくない路線の馬を育成することも大事」と話されていました。そうした中で、サウジダービーを勝利。こちらも言葉通りですね。

津田場長

フォーエバーヤングに関しては、矢作(芳人)先生とオーナーである藤田(晋)さんのチャレンジ精神が生んだ結果だと思います。ダートであそこまで走るとは、本当にビックリしました。

シンエンペラーも小笠原厩舎育成馬ですし、藤田オーナーと早来は、相性が良い印象があります。

津田場長

藤田さんは競馬界にとって、本当に救世主のような方だと思っています。競馬ファンが次のステップに移り変わっていくきっかけを作っていただきましたので。

以前、藤田オーナーにインタビューさせていただいた際に、「とにかく馬主生活が楽しい」と話されていました。

津田場長

競馬を楽しんでいただく方が増えると、競馬界全体が明るくなりますよね。こんなに明るいニュースが競馬界に溢れているのは日本くらいなんです。海外を回っていると、日本の競馬は、ものすごく恵まれているなと感じます。

それはどういった点で感じられますか。

津田場長

まず、JRAのようなレーシングクラブがしっかりしていること。売り上げも大きいですし、それがしっかり賞金へと還元されていて、ドーピングなどのルールも明文化されているので、安心してレースを使うことができる・・・と、数え上げればきりがありません。

海外では成立しにくいシステムなのでしょうか。

津田場長

海外だと、ブックメーカーに売り上げが取られるので、日本のような盤石なシステムを作るのは、かなり困難なことだと思います。それに伴い、競馬ファンの熱が非常に高いのも、日本競馬の素晴らしいところ。社交場ではなく、あれだけ大勢のファンが競馬を見に来るという文化は、世界中どこを探してもないと思います。

近年、競馬に関するイノベーションは、日本発が多い気がします。

津田場長

おっしゃる通りです。それに生産者ランキングが発表されているのは、世界で日本だけなんですよ。たとえば、私たちが世界一の牧場に勉強しに行こうと思っても、どこが世界一なのか分からないのが現状なんです。

競馬施行のシステムだけではなく、データまで日本は整備が進んでいるんですね。育成の厩舎別に2歳馬を紹介しているPOG本を外国人が見たら、目が点になるかもしれませんね(笑)。

津田場長

誰が生産して誰が馴致しているのか、それがファンに見えるのは日本だけです。ノーザンファームは、生産者ランキングを気にしながら、とにかく頑張っています。それこそ空気を読まないくらいに(笑)。

皆さんに話を聞いても、驕っていることがありませんよね。

津田場長

競馬界全体が追いつけ追い越せで競争し、世界で活躍する馬が次々と輩出されています。それだけに、唯一、海外に負けているのが、ホースマンの技術、知識だと感じます。

まだ足りないと感じられますか。

津田場長

もっと馬を走らせるには・・・と考えると、「幸せに育てること」が答えなのは見えているんです。
ただ、海外と同じように、外でほったらかしにして生えている草を1年中食べさせても、北海道は寒いので、馬は幸せにならないんです。

馬産地といえば北海道なので、勝手に馬は寒さに強い生き物だと思っていました。

津田場長

マイナス20度は馬にとっても相当つらい環境なんです。夏は一気に草が生えるけど、冬は草が生えないから、海外から買って食べさせています。それだけで、1年中同じ牧草が食べられる牧場と差がついてしまいます。逆に厳しい環境だからこそ、工夫次第で個々の差がつきやすい。そこが日本競馬の特徴だと思っています。

そうやって日本の競馬は切磋琢磨してきて、今なお成長途上なんですね。

津田場長

海外の真似をしても、環境が違うので役に立たない面もあります。だから「馬が幸せになるには・・・」ということをゼロから考え、工夫しないといけないんです。

興味深い話、ありがとうございます。続いて現2歳世代に話題を移したいと思うのですが、まず新種牡馬の評価を聞かせてください。

津田場長

まずはサートゥルナーリアでしょうか。頭数が多いので、いろいろなタイプがいますが、基本的には中距離型で、早熟なイメージはありません。バランスが良くて、性格も穏やか。走りに欠点がなく、重すぎないのも特徴。平均点が高い種牡馬ですね。気性的にも、余計なことをしないので安心して見ていられます。

具体的に注目馬を挙げていただけますか。

津田場長

牡馬はラルケット22 ハープスター22。牝馬ならシュガーショック22ですね。

お母さんの名前からしてオールスター級ですね。続いてナダル産駒はいかがですか。

津田場長

ナダルが大型馬なので、繁殖は馬体がコンパクトな馬に多く付けています。そうしたこともあり、重苦しいと感じる馬は多くありませんね。ナダル自身も、現役時代は凄い瞬発力を誇っていた馬。高い運動神経が産駒にもしっかり伝わっている印象があります。

ナダル産駒に関しては、「動かしてみたら良い」と評価するスタッフの方が多い印象です。この時期に、牧場での評価が急激に上がった種牡馬といえば、昨年のスワーヴリチャードが思い出されます。

津田場長

調教で15-14を始めてから、動きが目立つようになったんですよね。

その中でも出世頭のレガレイラが早来から誕生しました。今年は皐月賞から始動。夢を見させてくれる1頭ですね。

津田場長

凱旋門賞に行きたいですね。昨年のような馬場なら好勝負できるのではないでしょうか。スルーセブンシーズにとっては速すぎるくらい馬場でしたからね。

ではナダルに話を戻して、注目産駒を教えてください。

津田場長

牡馬ならサングレアル22 プリームス22。牝馬だとクィーンズバーン22が面白いと思います。
それとマイル路線が中心になってくると思いますが、アドマイヤマーズも切れがある馬が多くて良いですよ。重さもありませんし、多くの活躍馬が出てきそうです。

具体的にお名前をいただけますか。

津田場長

牡馬だとトレジャリング22。牝馬ならテディーズプロミス22でしょうか。あとこの世代の生産頭数は少ないのですが、シスキン産駒も動きが良いんです。頭数が少ない分、新種牡馬ランキング上位には来ないでしょうが、注目しておいて損はないと思いますよ。その中でも注目は、シャンドランジュ22(牝)。マイルまではこなせると思います。

ありがとうございます。ここからは、産駒別に聞いていこうと思うのですが、まずキズナ産駒はいかがでしょうか。

津田場長

牡馬はダートに適性が寄る馬も多いのですが、ヤングスター22 は芝の大きいところも狙える器だと思います。牝馬だとコーステッド22に期待しています。

インクルードベティ22には期待大

続いてキタサンブラック産駒に関して教えてください。

津田場長

期待が大きいのは、インクルードベティ22 。おそらく厩舎長の山内からも期待の声が聞かれるのではないでしょうか。あとは、木村厩舎のマイハッピーフェイス22。牝馬だと、大谷厩舎のギモーヴ22。大谷厩舎はキタサンブラックと相性が良いので(ラヴェルで2022年のアルテミスSを制覇)期待しています。

そして2歳がラストクロップとなるドゥラメンテ産駒。以前、場長もドゥラメンテの大物を出したいと仰っていました。

津田場長

最後の世代から大物が誕生してほしいですね。牡馬はカラフルブラッサム22ポジティブマインド22。牝馬はサロミナ22でしょうか。
あと、今は少し休んでいるのですが、マラコスタムブラダ22(牝)は、大きいところを獲れる器だと思っています。

半姉のレシステンシアも、2歳のこの時期は調教できていませんでしたが、年末のGIまで、ノンストップで獲りましたし、同じような流れになるかもしれませんね。続いて、エピファネイア産駒はいかがですか。

津田場長

今年は例年以上に良いと思いますよ。その中で目立った存在なのが、サロニカ22(牡)とシーズアタイガー22 (牝)ですね。

以前までは、厩舎取材の際に、「エピファネイア産駒は何が走るか掴みにくい」というコメントを多く聞かれたのですが、少しずつ厩舎長からも強気な言葉が聞かれるようになりました。

津田場長

フォーカスが合ってきたのかもしれないですね。今年はかなり走ってくれると思います。

続いて、2年目のスワーヴリチャード産駒に関してお願いします。

津田場長

とにかく走るスワーヴリチャード産駒ですが、牡馬はマルーンエンブレム22 で、牝馬はソニックグルーヴ22ですね。
それとレイデオロ産駒ですが、現3歳世代はようやくエンジンがかかってきたところですね。少し遅いという印象を受けるかもしれませんが、初年度産駒の馬体を見て、幅が出る繁殖に付けたのが2歳世代。成績も上がってくると思います。牡馬はダンシングラグズ22、牝馬ならリラヴァティ22バラダセール22の2頭が良いですね。

では、その他で注目を具体的に挙げていただけますか。

津田場長

ロードカナロア産駒では、セットスクエア22(牡)、アドマイヤミヤビ22(牝)。モーリス産駒は、シュプリームギフト22(牡)、ソシアルクラブ22(牝)。
それ以外の種牡馬から挙げると、ミッキーアイル産駒のファディラー22(牡)、ハービンジャー産駒のグラマラスライフ22(牡)、ジャスタウェイ産駒のエピックラヴ22(牝)が面白いと思います。

今年も貴重なお話、ありがとうございました!