社台ファーム
東礼治郎場長インタビュー

ブリックスアンドモルタルはサンデーサイレンスの再来!

2022年は勝ち星を伸ばしただけでなく、桜花賞・オークスと牝馬2冠を達成したスターズオンアースや、菊花賞を制したアスクビクターモアといったクラシックホースを輩出するなど、まさに充実一途の社台ファーム。

現3歳世代も、クラシックを目前に、牡馬では京成杯を制したソールオリエンス、スプリングS覇者のベラジオオペラ、牝馬ではシンザン記念を勝利したライトクオンタム、モズメイメイはチューリップ賞を勝ち桜花賞に駒を進めるなど、役者が勢ぞろいだ。

POG的にも、社台ファーム固め≠ェ一つの戦略として考えられるだろう。そこで今年も、東礼治郎場長に、注目の2歳馬を挙げてもらった!

今年も東場長に、2歳馬を中心にいろいろお聞きしたいと思います。

東場長

まずは、新種牡馬の産駒から話をしてきましょうか。

前号では、冒頭に「社台ファームは新種牡馬から走る馬が出る≠ニいうジンクスがある」と書きましたが、ディープインパクトのラストクロップであるライトクオンタムが重賞を制覇。新種牡馬ではなく、ど真ん中がきました。

東場長

そうでしたね(笑)。ただ、ライトクオンタムは走ってもらわないと困る馬でしたので、そういう意味では、ひと安心しています。

では、東場長にお話しいただいた通りに、新種牡馬からお聞きしたいと思います。ブリックスアンドモルタル産駒のラインアップに目が奪われますね。

東場長

期待が大きいですからね。初年度から活躍が見込める産駒がそろっています。とにかくお父さんの実績がすごい。
2019年のエクリプス賞年度代表馬なんですが、アメリカで芝馬の年度代表馬が出るなんて、歴史に名前が残る偉業です。そうした勲章を引っさげて来るのだから、サンデーサイレンスが日本に来た時のイメージに近いかもしれません。

その時代を知っている場長の言葉だから、重みがありますね。

東場長

サンデーサイレンスはダートで実績を作った馬だけど、ブリックスは芝でGIを勝ちまくった馬だから、日本の馬場が合わないわけがないと思っていますよ。

産駒もその特性を受け継いでいる馬が多いですか。

東場長

そうですね。要所要所の筋肉が、いい物を持っているなと感じさせてくれます。クラシックのイメージを抱かせてくれる種牡馬なのは間違いないと思います。社台ファームとしては、次世代以降も安定して付けていきたいと思っていますし、走ってくれないと困りますね。

それでは、ブリックスアンドモルタル産駒の中から、期待馬の名前を具体的に教えていただけますか。

東場長

早めにデビューできそうなのが、ジャドール21(牡)。お母さんは、ダートの短距離を走っていました。この仔は、走ることに真面目。サイズも460キロと軽く、仕上げやすいタイプです。現時点では、北海道シリーズが目標ですね。
サラフィナ21 (牡)は奥がありそう。スタッフに聞くと、走り方もしっかりしているし、性格も穏やかとのこと。中距離路線が良さそうですね。
エオリアンハープ21(牡)もスタッフの評価が高い1頭ですね。普段はおとなしいけど、前進気勢があり、ぐんぐん前へと進んでいく。決してカッとしているわけではなく、落ち着いて走っているから、能力が高いのでしょう。

他の新種牡馬産駒はいかがですか。

東場長

スワーヴリチャードはハーツクライの仔だからか、産駒は総じてきれいな走りをしていますね。その中でも、パールズベスト21(牡)は良いんじゃないかな。ストライドが大きく、推進力がある。かといって不器用じゃないんですよね。
ルーヴインペリアル21(牡)も、気性が良く、乗りやすいという強みがある。スワーヴの仔は比較的、距離は長いほうが良さそうなイメージです。焦らず、じっくり成長を促したいタイプが多いかもしれませんね。

ハーツクライ(※取材後の3月10日に死亡が発表された)の産駒は、今年が最後の世代。社台ファームから、大物がもう1頭出てきてほしいというファンも多いと思います。

東場長

そうですね。ハーツクライ産駒の中で、現時点で期待しているのは、ファタルベーレ21(牡)。やったぶんだけ身になっています。体重は460キロ前後で、調教もやりやすく、期待値は高いですよ。
あと、高額馬として注目されている(セレクトセール2021において2億円で落札)ラブリーベルナデット21 (牡)は、520キロある大型馬ということもあり、まだ慎重に進めています。
逆に言えば、攻めると動き過ぎてしまうことへの配慮。これから体と気持ちのバランスが取れるようになると、さらに変わってくるはず。素質は当然高いものを持っていますよ。

昨年、デルマソトガケが3連勝で全日本2歳優駿を制覇(取材後にUAEダービーを勝利)。2年目となる、マインドユアビスケッツ産駒について教えてください。

東場長

走ってくれて良かったです。デルマソトガケはダートで活躍したけど、芝で新馬勝ちした馬もいるし、今後もいろんなタイプが出るんじゃないかな。
ただ、マインドユアビスケッツが追い込み一辺倒の馬だったからか、逃げや追い込みなど、極端なレースで活躍している産駒が多い印象ですね。揉まれることを避けるためにも、気持ちがコントロールできて、個体の強さが走る産駒の条件だと思っています。

まさにデルマソトカゲも逃げ切りを果たすなど、その特徴に当てはまっていますね。2歳世代だと、どの馬がその条件に当てはまりそうですか。

東場長

サンテミリオン21(牡)の期待は大きいですね。お母さんはアパパネと同着のオークス馬。そろそろ・・・という予感があります。

ここ3年は、ロードカナロアを付けていますが、14年の繁殖入り以降、さまざまな種牡馬の産駒が出ていますね。

東場長

マインドユアビスケッツを付けたところ、今までとはまた雰囲気が違いますね。他の繁殖にも言えることですが、マインドユアビスケッツを付けると、丈夫な仔が生まれやすく、しっかりとした調教を積むことができるんです。
サンテミリオン21も、調教を進めてもへこたれません。スタッフの評価も、「スピードもあるし、やりやすい」と高いので、自然と期待も膨らみますね。

昨年、注目馬として名前を出していただいたシャザーンが、すみれSを制覇しました。今年も、ロードカナロア産駒は粒がそろっていそうですね。

東場長

今年は、例年以上にいい繁殖に付けていると思います。まずお母さんがフェアリーSを勝っているダンスファンタジア21 (牡)。仕上がりが早い血統ですが、成長力も感じさせるし奥がありそうです。
ジュエラー21(牝)は、お母さんが桜花賞馬。ジュエラーは500キロ前後あったけど、本馬は470キロほどで、重苦しさがなく、スピード豊富なタイプ。体をうまく使えば大きいところまで狙っていけると思います。
あとは、ペイドメルヴェイユ21(牝)。初仔で、まだ430キロくらいだけど、お母さんは小さくなかったし、これから大きくなっていくのではと考えています。走法的に現状短いところが合っていそうで、早い時期にデビューできるのでは、と思います。

ロードカナロア産駒は、次々と名前が出てきますね。それだけ期待馬が多いということでしょうね。

東場長

それと、現状で目を引くのが、ダンサーデスティネイション21 (牡)。お母さんがイタリアの1000ギニーを勝っていて、距離もマイルから2000m以上をこなす血統。
兄姉は、カッとなる馬が多かったんですが、本馬にはそうした力みがないですね。ゆったり感があるのに、速い時計が出ているので、大物に育つ予感がしています。

本馬は、セレクトセールで主取りになっているんですね。

東場長

セリの後に、成長する馬もいるんです。成長が早い馬はセレクトセールで高い評価を与えられて、本馬のようなタイプは、5月の千葉セリに合わせるかのように、この時期よくなってくる。
現3歳の3連勝でスプリングSを勝ったベラジオオペラも、セレクトセールで主取りになり、千葉セリという流れでした。

ダンサーズデスティネイション21も、グッと成長しているわけですね。

東場長

乗り込まれてから母系の良さが出てきました。スケール感がありますね。これで、千葉セリで主取りになったらどうしよう(笑)。

半兄プログノーシス以上の
決め手を秘めるヴェルダ21

あとは、種牡馬別にくくらず、注目すべき馬を紹介していただけますか。

東場長

今年のキズナ産駒は、良い繁殖が付いていますね。うちの牧場で評判なのが、アスクビクターモアの半妹になるカルティカ21 (牝)。
菊花賞馬の下ですが、距離はマイルから中距離くらいが適性になるんじゃないかな。キズナ産駒ということで丈夫だし、ハードな調教にもしっかりと応えてますね。
金鯱賞を勝ったプログノーシスの半弟になる、ヴェルダ21 (父オルフェーヴル)もいいですよ。
この馬は、オルフェーヴル産駒特有の難しさもないし、操作性が良く、今のところ大きな弱点はありません。芯もしっかりしているし、プログノーシスより決め手を秘めていそうに映ります。

プログノーシス以上の末脚となると、相当な素質馬といえそうですね。

東場長

オルフェーヴルみたいな大外ブン回しの競馬もできるんじゃないかな(笑)。
あと、秘密兵器は今年もイスラボニータ産駒ですね。その中でも、リベルタンゴ21(牡)は、スピード満点で、フットワークも豪快です。距離は、中距離までこなせそう。
あと、初仔になるラビットラン21 (牝)も面白い存在ですよ。お母さんはタピット産駒でありながら、ローズSを勝っているように、芝・ダート問わない個性派でした。
産駒も、脚元に不安もないですし、きれいなフォームで走っていますよ。

今年もありがとうございました!