牡馬の調教主任に続いて、牝馬厩舎「日下グループ」を束ねる、日下和博調教主任の登場です。
現3歳世代はブトンドールが函館2歳Sを制し、ラヴェルはアルテミスSを勝利し、桜花賞に駒を進めている。
だが当然、現状に満足しているはずがない。その胸中を本誌だけに明かしてくれた。
今年もよろしくお願いします。
厳しいねー!
それは思った以上に、勝つのが難しくなっているということでしょうか。
桜花賞の出走ボーダーが、ものすごいことになっていますからね。阪神JF2着、リステッド競走を勝っても出られないと言われているんですから。うちのラヴェルにしたって、アルテミスSを勝っているのに、16番目ですよ。考えられないですよね。
その理由のひとつに、直行ローテーションが挙げられるでしょうか。
今の3歳には、札幌2歳S、アルテミスS、阪神JFと重賞3連勝したソダシのような馬がおらず、違う馬が賞金を加算していますからね。こうなると早い時期にデビューするのはもちろん、2勝目を早く挙げることが大事になってくると思います。
ノーザンファームだけでなく、競馬界全体が早期デビューを目指して進んでいますからね。
これからは、8月の札幌で行われるコスモス賞やクローバー賞の価値が高くなってくるのではないでしょうか。
ひと口にデビューを早める≠ニ言っても、そこに至るまでは相当な苦労があるのではないですか。
大変ですね。3〜4月に移動し、入厩させるところまで持っていくのは、そこまで大変なことではないんです。ただ大事なのは、6月の東京・阪神で高いパフォーマンスが出せるか。そこに行くまでも勝ち抜かないといけないわけです。入厩したとしても、少しの故障で脱落してしまいますから。
走る前から競争が始まっているということですね。
それどころか、馴致の時から勝負が始まっていますよ。
昨年、「3年先、5年先を考えたら失敗することも必要」とお話しされていたように、毎年、チャレンジを続けている印象があります。
何が正解なのか、意見を出し合ってフィードバックするようにしています。たとえ失敗しても、すべて良かれと思ってやったことですし、それは改善すればいい。良かったものはどんどん取り入れていく。そうして、だいぶいい方向に進んでいると思いますよ。
先ほど少しお話に出ましたが、3歳世代に関しては、どのような感想を持っていますか。
3歳世代も決して悪くなかったんですよ。牡馬はホープフルSを勝ちましたし、うちのグループでも函館2歳SとアルテミスSを勝っていますし。ただとにかく、他が強くなっていますよね。勝つことがシビアになっていると感じています。
日本馬のレベルが上がり、勝つことがどんどん難しくなっていますよね。
調教、育成技術が上がって、抜け出すのが難しい大変な時代になっていますね。海外の大きなレースを、日本馬がいくつも勝ってしまうわけですから。
ただ、そんな時代だからこそ、日下さんの闘争心に火がつくのでは。
敵が増えれば増えるほど、余計燃えますよね。指を咥えているだけでは強くなりません。ここから逆襲していきますよ。
そうした中で、現2歳世代の調教において、何か変えたことはありますか。
これまでは、年が明けてから調教のピッチを上げていたのですが、今年は、年を越す前の段階で、いつも以上にペースを進めるようにしました。そうしないと、どうしても遅れてしまうので。
それが先ほどのお話にあったように、6月の東京・阪神に照準を合わせること、さらには2勝目を早く挙げることにつながっていくわけですね。
そうですね。ひとつ勝って、2歳重賞を狙って獲れるようにしたいですね。実はブトンドールが勝った函館2歳Sは、勝ちたいレースのひとつだったんです。それを去年は達成できたので、良かったですね。
津田場長もお話しされていたように、ノーザンファームらしくない舞台≠ナすよね。
全頭がダービー、オークスを目指しているわけではないですからね。馬によって進め方を考えないといけません。ブトンドールや、5歳のメイケイエールのような馬が出ているから、うまくいき始めているのかなと感じています。一方で、当然、阪神JFを勝つような馬も出していきたいですよね。
それでは、日下さんが期待している2歳馬について、具体的に名前を教えてください。
一番の注目馬として挙げられるのは2頭。東のチェッキーノ21 (父ハービンジャー)、西のサロミナ21(父ハーツクライ)ですね。
チェッキーノ21は、取材時に撮影させていただきました。
ひょっとするとひょっとしますよ。一発を秘めています。お母さんは、私が厩舎長だった時の最後の世代。大きいところを勝たせてあげられなかったんだけど、お母さんのぶんも、この仔が活躍してくれたらうれしいですね。
サロミナ21はいかがでしょうか。
兄姉は走っているけど、牝馬ではまだGIを勝っていないので、この馬で大きいところを狙っていきたいですね。2頭とも本当に順調ですよ。
その他に面白いという馬がいたら教えてください。
ハルーワスウィート21(父スワーヴリチャード)は、母の最後の産駒。思い入れが強いですし、馬も本当にいいですよ。あとはメチャコルタ21(父モーリス)。宮田(敬介調教師)と重賞を勝ちたいですからね。
ありがとうございました。これからの逆襲を楽しみにしています。
POGファンの方々を裏切らないように頑張りたいと思います。
本コンテンツは、黄色のPOG本 「POGの王道」2023-2024(双葉社)の一部を掲載しています。