ノーザンファーム早来
津田朋紀場長インタビュー

正統派からノーザンFらしくない馬≠烽「ます!

昨年の「JRA賞年度代表馬」イクイノックスを輩出したノーザンファーム早来。現3歳世代も、ホープフルSを勝利したドゥラエレーデや、弥生賞ディープインパクト記念を制したタスティエーラなど、POG的にも高ポイントゲッターが次々に現れた。

今年も、上位進出のために、津田朋紀場長の助言が欠かせないところ。注目馬をじっくり聞かせてもらった。

昨年のインタビューの冒頭で、イクイノックスについてお話をしていただきましたが、天皇賞(秋)、有馬記念を連勝し、年度代表馬に輝きました。

津田場長

去年のこの時期には、間違いない馬だと牧場みんなが感じていたので、クラシックこそ勝ち切れませんでしたが、順調に結果を残してくれて良かったです。

ただ取材時の3月は、東スポ杯を勝っているとはいえ、皐月賞まで長期の休養中でした。それでも、自信を持たれていたのが印象的です。

津田場長

2歳時のレース内容が、ここで乗っていたときの少し非力なイメージからガラッと変わっていました。当初、キタサンブラック産駒が活躍するのは、古馬になってからだと思っていたので、2歳であれだけ一気に成長し動ける馬が出たことは驚きでしたね。

現3世代も、ラヴェルがアルテミスSを勝ちました。

津田場長

そういった早い馬も出ていますし、3歳秋から3連勝中のジャスティンスカイなど、奥がある馬も多いんです。早熟化が世界の流れですので、2歳、3歳時に結果を出して引退する種牡馬が増えている中、キタサンブラックやモーリス、ロードカナロアなど古馬になってからも活躍した奥のある種牡馬が、今後は貴重な存在になっていくと思います。

昨年の天皇賞(秋)は、パンサラッサの大逃げもあって、レース動画が世界中で話題になりました。もちろん勝ったイクイノックスの名前も、世界中に知れ渡ったかと思います。

津田場長

面白いレースがファンにお見せできたのは嬉しかったですね。あの時の競馬場の盛り上がりは忘れられないですよ。強い馬同士の激突というのが、競馬の一番大事な部分だと、改めて感じさせられました。

続いて現3歳世代について振り返っていただけますか。

津田場長

これからのクラシック次第ですが、まずドゥラエレーデのような、今までのノーザンにはいなかった馬が出てきたことは良かったと思います。

UAEダービー→ケンタッキーダービーというローテーションにファンも驚きました。
※取材当日時点の予定

津田場長

ダートで未勝利を勝って、2歳の芝GIを勝つのは、滅多にありませんからね。ただ私は、こういうタイプも好きで(笑)。イクイノックスは、狙ったレースをしっかり仕留めるという意味で、ノーザンらしく正統派じゃないですか。当然、そういう馬も大事なんだけど、チャンピオンズCを勝ったジュンライトボルトなんて、POGの取材で一度もダート馬なんて言ってなかった。そうしたこともあり、思い込みで馬の可能性を奪いたくないというのを、より意識した1年だったと思います。

場長からノーザンらしさ≠ニいう言葉が出たのが新鮮です。どちらかといえば、マスコミやファンが決めつけている印象があったので。

津田場長

馬主さんからの要望を聞いていると、ノーザンのイメージというのは自然と伝わりますよ。ただ、成功体験にとらわれたくないですし、弱点があるからイメージも生まれてくると思うので。

そういう観点から、ドゥラエレーデやジュンライトボルトの存在が大きかったんですね。

津田場長

あと函館2歳Sを勝ったブトンドールも印象的でした。縁のない血統ですし、ずっとノーザンが獲れていなかったレース。うちの調教方法では好走しにくいレースだったので、勝てて嬉しかったですね。レース選択の幅や、トレーニングの対応力が出てきた証拠なのかなと考えています。

一昨年にメイケイエールで小倉2歳Sを勝ったのも、今にして思えばノーザンらしさが薄れていく始まりだったのかもしれませんね(笑)。

津田場長

そうなんですよ。小倉は紛れもあって、なかなか使い出しとしては敬遠することが多い舞台。その中で予定通りに重賞ウィナーを出せたのは大きいですね。ただブトンドールの時は喜び過ぎて、「ダービーを勝ったわけじゃないんだから・・・」と怒られたことが、個人的な反省点です(笑)。

では、今年の注目馬について、話を聞かせていただきたいのですが、調教取材時に、スワーヴリチャード産駒の評判の良さが聞こえてきました。

津田場長

そうなんです。それも、坂路15-15を始めた2月くらいから、グッと良くなった。この時期は馬格があるだけでも馬が良く見える時期ですが、調教ペースを上げて台頭してきたというのは、実戦に近づいても良いということだと思いますので。

ファン目線からすると、少し意外な高評価でした。

津田場長

繁殖も正直トップ級が付いているわけではないのに、評判がいい。頭数も多いわけではありませんが、粒ぞろいで平均点が高い。今年のひとつの楽しみです。あと、ブリックスアンドモルタル産駒は、可動域が広いとのことで(社台スタリオンステーションの)筒井(裕司)君は絶賛していましたよ。前進気勢もあるので、日本の競馬にマッチする可能性は十分にありますね。

では、具体的に牡馬から聞かせてください。

津田場長

去年は、山内厩舎がすごかったですからね。ダノンタッチダウンで朝日杯FS2着、ホープフルSをドゥラエレーデで勝つんですから、持っていますね。

実際、昨年の山内厩舎は取材時でも手応えを感じているようでした。

津田場長

吹かない男ですからね。それに比べると、今年は比較的静かかな(笑)。でも、ユードントラヴミー21(父オルフェーヴル)は爆発力のある血統だし、ぜひ注目してもらいたい1頭。あと、ベルダム21 (父エピファネイア)、ボンジュールココロ21(父ルーラーシップ)もしっかり走ってくると思います。

今年はこの流れで厩舎別に聞かせてください。

津田場長

わかりました。野崎厩舎なら、まずはプリンセスロック21(父モーリス)ですね。

先ほど名前が出たブトンドールの半弟ですね。

津田場長

それが理由ではないですけどね(笑)。でもこの馬には本当に期待をしていて、今までのモーリス産駒の中でも、現段階で一番かもしれません。

そこまで強気な津田場長も珍しい気がします。

津田場長

本当に走ると思いますよ。セルキス21(父キズナ)と坂路で併せて上がってくる姿を見ると、これは楽しみだと思わずにいられません。今年は、キズナ産駒が揃っているんですが、その中でもセルキス21は筆頭だと思います。野崎さんはもともと、リスグラシューやクロノジェネシスなど牝馬を数多く育成していますが、牡馬を作ったらどんな馬が出すかを見たくて、「好きにやってください」とお願いしました。昨年は体調の弱い仔だったり、入ってくるのが遅かったり、苦労したと思うんですが、2年目で一気に変わってきましたね。

野崎厩舎長は、取材ではあまり強気なことは話さないタイプに見えます。

津田場長

馬を走らせることに対しての熱意は相当強いですよ。壊さないことを第一に考えているので、しっかり攻めることができた今年の世代は、かなり走ってくると思います。

続いて木村厩舎の注目馬を教えてください。

津田場長

アドマイヤローザ21 (父モーリス)にシェリール21(父ルーラーシップ)。あとダート寄りかとは思うのですがユキチャン21(父ヘニーヒューズ)。それと面白いところでは、マース21(父Constitution)も走ってきそうですね。

桑田厩舎はいかがですか。

津田場長

リアルスティール産駒のフォエヴァーダーリング21。しっかり鍛えられていますし、まだまだリアルスティールは見限ってはダメだと思います。それと、スワーヴリチャード産駒のジンジャーパンチ21 でしょう。

小笠原厩舎で注目している馬を教えてください。

津田場長

小笠原厩舎ならやっぱりStarlet's Sister21(父Siyouni)になるでしょう。

2020年の凱旋門賞馬(Sottsass)の全弟として話題の馬ですね。

津田場長

少し遅いかもしれないですが、その分、奥はありそうですね。これだけの馬が日本でどんな競馬をするかは、素直に楽しみです。
続いて石井厩舎は、インクルードベティ21 (父ハーツクライ)、カンデラ21(父レイデオロ)がいいと思いますよ。

レイデオロ産駒の名前が初めて出てきました。

津田場長

1歳の時は、薄くて脚長で見映えがあまり良くなかったんですが、ここに来てバランスが取れた馬体になってきましたね。付けている馬の質も良いので、何かしら必ず当たりは出ると思いますよ。先ほど、言い忘れてしまいましたが、桑田厩舎のファイネストシティ21も、レイデオロ産駒の中では上位だと思うので覚えておいてください。

続いて牝馬のほうも、お願いします。

津田場長

まず村上厩舎で走ってもらわないと困るのがシーウィルレイン21(父サトノダイヤモンド)。このお父さんなので、本当に良くなるのは秋だとは思うのですが、今年は京都開催があるので、コース形態的にもサトノダイヤモンド産駒にプラスだと思います。サトノダイヤモンドを背負っていく1頭になるはずですよ。あとは、ウィクトーリア21(父ロードカナロア)、ウェイヴェルアベニュー21 (父キズナ)がいいですね。

サロミナ21は
牝馬のトップ級

では山根厩舎をお願いします。

津田場長

牝馬のトップとして名前を挙げたいのがサロミナ21(父ハーツクライ)。間違いなくクラシックで勝負できると思います。あとチェッキーノ21(父ハービンジャー)、キングスローズ21(父リアルスティール)。この3頭ですね。
そのまま佐藤厩舎に移って、メチャコルタ21(父モーリス)はすごくしっかりしていて、いい馬ですよ。それでいて動きが軽いので、かなり走ってきそうです。あとシャトーブランシュ21(父キズナ)、ロカ21(父スワーヴリチャード)も走ってもらいたいですね。

大谷厩舎はいかがでしょうか。

津田場長

キャリコ21(父モーリス)は、評判がいいですね。(スタッフの)古賀君が乗っているんですが、いいライダーなんです。彼が乗る馬は、よく重賞を勝つんですよ。上はピッチ走法の馬だったけど、本馬は力強い踏み込みをするし期待できると思います。あとハルーワスウィート21(父スワーヴリチャード)、セリエンホルデ21 (父ドゥラメンテ)ですね。

では最後に、岡厩舎も教えてください。

津田場長

ダート血統ですが、芝でも走ると思っているのがスミレ21(父ニューイヤーズデイ)。新種牡馬でつかみにくいですが、スピードもあって牧場内での評判は上々。芝でデビューする予定ですよ。

今年もありがとうございました。