現3歳世代は、ドウデュース(朝日杯FS)キラーアビリティ(ホープフルS)と2歳牡馬GIを2つとも制覇するなど、クラシック戦線の中心にいるノーザンファーム空港。
昨年に引き続き、川崎洋史場長に、先輩たちに続く若駒たちについて語っていただいた。
昨年ノーザンファーム空港からは、2頭の2歳GIホースが誕生しました。
ありがとうございます。
キラーアビリティは、昨年の厩舎レポートでも、B-3厩舎で1頭目に出していただきました。
たくさんいい馬がいたので、その中で飛び抜けていたというわけでもなかったのですが、3月の段階から素質を感じさせる動きをしていたので、紹介できたのだと思います。
当初お話を伺っていたように6月に阪神でデビューできたのですが、それだけに初戦の5着という結果は、ショックだったのではないですか。
気性的に難しい面を牧場でも見せていたので、仕方ないなと割り切っていましたね。そういった馬でも、2歳GIに間に合わせることができたという点でも、早期にデビューすることのメリットは大きいと感じます。
ドウデュースはいかがでしたか。
ハーツクライ産駒のこの時期って難しいんですよ。これからの成長力が特にものをいう血統なので。
ドウデュースは昨年、残念ながら取り上げることはできませんでした。
決して評価が低かったわけではないんです。だけど他にいいハーツクライ産駒がたくさんいたので。
ハーツクライ産駒でなかったら、名前が挙がっていたかもしれませんね。
本当にそうですね。ただ、今年もハーツクライが揃っているから、言い訳を最初から並べないほうがいいかな(笑)。
今年もそのラインナップの中から、たくさん教えてください!
実は先日、黄本を読み返したところ結構ハズしているな……≠ニ思って反省していたところなんです。小学生の息子にもチェックされるんですよ。「偉そうに写っているね」と言われたりして(笑)。家に届くクラブの会報も読んでいるので、かなり競馬に詳しくなっていると思います。
見る目も厳しそうですね(笑)。
しかも遠慮なくズバズバ言ってくるので、こっちの心がやられます(笑)。
そんな川崎場長が昨年、推していたのが、ハイアムズビーチ。ドレフォン産駒ですが、川崎場長が話されていたように、芝で新馬を勝ちました。
ただ2勝目が遠いですね。重賞を獲る器だと感じていたので、現時点では残念な結果です。ドレフォン産駒は、年明けになってダートでの勝ち星が増え始めましたね。芝でも走りそうな雰囲気は、現2歳世代にも感じるのですが、結果を求めて早くからダートを使う馬が増えるかもしれません。
実際、昨年紹介していただいた馬の成績を調べたところ、1勝馬は多いものの、2勝めの壁が厚かった印象です。
空港としては、牡馬のGIを2つ獲れたのですが、この世代の牝馬は、なかなか重賞を勝てずに苦戦しました。今年に入り、プレサージュリフト(クイーンC)、ナミュール(チューリップ賞)が勝ち、クラシックに向かう馬が出てきてひと安心しています。
ナミュールは昨年、B-1厩舎で出していただきました。林厩舎長は「厩舎として開業初年度なんで……」と謙虚でしたが、桜花賞、オークスへと楽しみな馬が出てきましたね。
2歳GIを勝った牡馬2頭がともにB-3厩舎だったり、ナミュールのB-1厩舎だったり、若い厩舎長の活躍が見られる世代でした。
空港牧場は、次々と新しい厩舎を建設していることもあり、若い厩舎長も誕生しています。新しい世代の厩舎から活躍馬が出ると、牧場全体からも活気が生まれるでしょうね。
お母さんをやっていたとか、そうした理由で厩舎が決まることもありますが、厩舎によって馬の質が変わることはありません。毎年モデルチェンジを繰り返しながら、成績を上げていくことを心がけているので、どこの厩舎から活躍馬が出てもおかしくないんですよ。そういった意味で、昨年から今年にかけては、若い厩舎長に風が吹いたかな。
モデルチェンジという点で、今年心がけたことは何かありますか。
運動の質を上げていこうと、現場のスタッフと意識しあうようにしています。仮に勝つことができたとしても、レース後には調教師の先生や、ジョッキーのコメントなど気になる部分が出てくる。勝ち星が増えても、納得することは基本的にはないですね。
それでは、この世代についてお聞きします。まず先ほど名前が出たハーツクライ産駒はいかがでしょうか。
シーウィルレイン20(牡)がいいと思います。お母さんはオーストラリアの2歳チャンピオンで、早い時期から活躍しました。ハーツクライ産駒は遅いイメージがありますが、最近は早期から活躍できる馬も出ていますし、このお母さんということもあり2歳チャンピオン≠目指します。
昨年に続いて2歳チャンピオンという言葉が出ましたね。
それを目指せたらいいな、にしておいてください(笑)。あと厩舎でもいい言葉が聞けるでしょうが、スウィートリーズン20 (牡)。この馬はクラシックのど真ん中で勝負できると思います。
続いて、評判が特にいいと聞くロードカナロア産駒はいかがでしょうか。
良血が揃っていますからね。期待して種付けした世代ということが一目瞭然だと思います。その中でも際立って惹かれるのが、セリエンホルデ20 (牡)ですね。
昨年のNHKマイルCを勝ったシュネルマイスター(父Kingman)の半弟ですね。
お兄ちゃんがすごすぎるから、あまり大きなことは言えませんが、素質は相当高いですよ。シュネルマイスターと比べて、1歳時の評価はシュネルマイスターより本馬のほうが高かったですよ(※川崎場長は、ノーザンファームYearlingの場長も兼任)。
素質の高さを表すのに、これだけ大きなコメントはありませんね。
あと、コケレール20(牡)もいいですね。難しさのある血統ですが本馬は極めて順調です。母にとってはパーソナルベストだと思っています。
まだまだ飛び出しそうですが、続いてエピファネイア産駒もお願いします。
期待しているのは、クルミナル20 (牡)ですね。
2つ上のククナ(父キングカメハメハ)はクラシックに駒を進めましたし、1つ上のアライバル(父ハービンジャー)もスプリングSで2着に入っていますし、クルミナルの産駒は堅実に走っていますね。
エピファネイア産駒は、良くも悪くも一発型で、極端な成績に出る馬が多いですよね。そういう意味でも堅実に走っている血統と合わせると、大物に育ってくれるのでは、という期待感は大きいです。まだまだ幼さがあるので、秋以降のデビューになると思いますが、春になってぐんぐん良くなり始めているので、焦らずいきたいです。 同じくドナウブルー20(牝)も、とてつもない可能性を感じています。気持ちの部分で強いところがあるので、こちらも焦らず、慎重に鍛えていきたいです。
続いてドゥラメンテ産駒について教えてください。産駒の成績が右肩上がりだっただけに、昨年8月に、急性大腸炎で亡くなってしまい残念です。
ノーザンファームとしても、残りの世代で大物を出したいですね。タイムリミットができてしまいましたが、走る馬は必ず出ると思います。
2歳世代で一番注目されているのはどの馬でしょうか。
クイーンビーU20 (牡)は順調で、スピード乗りや反応も素晴らしいです。あと牝馬だとヤンキーローズ20。距離の適性は広いので、クラシックまで十分守備範囲だと思います。心身ともに充実していて、体の張りもあるし、手先に軽さもあります。この2頭は早くから移動する予定で、6月デビューを目標にしています。
続いて新種牡馬について聞かせていただきます。サトノダイヤモンドはいかがですか。
早く使える馬と、ゆっくり仕上げたほうがいい馬との区分けがハッキリしていますね。ゆっくりとはいえ、年明けデビューとかそういうことではなく秋始動組といった印象です。
初年度ですから、どちらのタイプがクラシックに進めるのか、見極めが難しいですよね。
そうですね。早い組にしても、決して成長が終わっているということでもないので、そこからの伸びしろに関しては、個体差によると思います。全体的に、お父さんに似て品のあるスラッとした馬が多いですね。
お父さんは当歳時から話題になるくらい、きれいな馬でしたね。
ベストルッキングホースであり、能力も高かったですからね。
移動が早い組で、注目馬を教えてください。
メチャコルタ20 (牡)は、最初に阪神でデビューして勝ってほしいですね。
それより少し後なら、コンヴィクションU20(牡)。2頭とも体が大きくボリュームがあり、なおかつ芝の中距離馬らしく無駄な肉がない。絵にかいたような芝向きのきれいな馬です。
リアルスティール産駒に関しては、どういうタイプが多いですか。
スラッとした馬が多く、そこまで早くないな、という評価ですね。
お父さんも育成時代から評価が高かったですよね。
リアルスティールとドゥラメンテはイヤリング時代、同じ厩舎にいたんですよ。そのときの評価は圧倒的にリアルスティールが上。当時のベストルッキングホースでした。
3歳時の実績だけ見ると、リアルスティールはドゥラメンテに見劣りしてしまいますよね。
ドゥラメンテは、4歳の春に引退。リアルスティールは4歳のときにドバイターフを勝っているので、後者が本格化してからの対決は実現しませんでした。ですので、産駒の対決というのも興味深いです。
ドゥラメンテは早逝してしまったので、限られた世代での対決になりますが、これも競馬の醍醐味ですね。リアルスティール産駒の注目馬を挙げるとしたら、どの馬になりますか。
サンタフェチーフ20 (牡)は早くから期待できそうな1頭ですね。矢作先生にも高い評価をいただいています。
最後に、その他の種牡馬で川崎場長が推す穴馬≠教えていただけますか。
リリーズキャンドル20(牡、父Saxon Warrior)は、4月生まれで成長はゆっくりだったのですが、ここにきてぐんぐん良くなってきています。お母さんはリスグラシューの近親にあたり、血統的にも面白い存在。フットワークも非常にいいですよ。お父さんが初年度産駒なのでイメージがつかみにくいですが、活躍してくれると思います。
本日は、どうもありがとうございました。
本コンテンツは、黄色のPOG本 「POGの王道」2022-2023(双葉社)の一部を掲載しています。