今年も吉田勝己代表にインタビューさせていただきます。よろしくお願いいたします。
こちらこそ、よろしくお願いします。
先ほどまで、オンライン会議をされていたとのことで、お時間を取っていただきありがとうございます。
朝の日課のようなものですから、大丈夫ですよ。以前のように移動が多いことを考えると体も楽ですし、朝のニュースもゆっくり見ることができます。コロナの次はロシアのウクライナ侵攻と、世界はどうなっちゃっているのかね……。
海外への移動が多かった代表なだけに、気になる部分も多いと思います。
ウクライナの子どもたちがかわいそうですよ。
そんな中、競馬だけは盛り上がり続け、売り上げも右肩上がりです。
考えられないですよね。こんな業界、日本の競馬くらいでしょ。盛り上がらなかったのは、ノーザンファームくらいかな(笑)。
いやいや、そんなことないですよ!
現3歳世代は、思った以上の活躍ができなかったですから。
それでも年末には、ドウデュース、キラーアビリティの2頭が2歳GIを制しました。
その代わり、牝馬がなかなか出てきませんでしたね。
今回の取材前に、チューリップ賞でナミュールが、クラシックの有力候補に名乗りを上げています。
ここにきてようやく帳尻があってきましたね。ナミュールだけは本当に強いと思っていたけど、今の競馬は負担が大きくて間隔が空くことが多いから、一度ガクッと崩すとそのまま使えなくなってしまうので、そのあたりが難しいですよね。
話を牡馬に戻しますが、先ほどの2頭に加えて、東京スポーツ杯2歳Sを勝ったイクイノックス、共同通信杯のダノンベルーガと、ノーザンファーム組が今年も主力を形成しているのではないでしょうか。
私はイクイノックスが一番強いんじゃないかと思っていますけどね。もちろん今の時点では。
キタサンブラックが初年度から良い仔を出しましたね。
調教でも、イクイノックスは動いていましたからね。キタサンブラックが走ってくれてよかったです。これからさらに、いい馬が出てくると思いますよ。
競馬ファンの予想を超えましたからね。
今にして思えば、どうしてあんなに人気がなかったのだろう(笑)。キタサンブラックは現役時代、みんな負かしましたからね。いい馬たくさんいたんですよ。現役時代に一緒に走っていた同世代の馬たちが種牡馬になれていませんから。キタサンブラックが強かったということを改めて知らされましたよ。
今年の話に移りますが、今回は先に厩舎取材をして、豪華なメンバーを見てきました。
本当に素晴らしいですよ。1歳はさらに素晴らしい。キズナやロードカナロアの仔なんて、抜群なのが相当数いますから。ちょうど今、全頭チェックをしている時期なんですが、楽しくて仕方ないですよ。
その話は来年まで取っておいていただけますか(笑)。ディープインパクトから他の種牡馬に主権が移っていく……という流れに沿うように、さまざまな種牡馬から注目馬が話に出てきました。
これまでも、ディープインパクト産駒だけが、GIを勝っていたわけではなかったですからね。
エフフォーリアは、ディープインパクト産駒の強豪が揃っていた世代の中で、皐月賞、天皇賞(秋)、有馬記念を制しました。
エピファネイア産駒の爆発力は素晴らしいですね。
ディープインパクト産駒がいなくなった昨年のセレクトセールでも、2日間(1歳&当歳セリ)で225億6100万円を売り上げ、記録が更新されました。馬主の皆さんも、さまざまな種牡馬の仔を求めているのでしょうか。
売り上げに関しては、少し心配していた部分もあったのですが、完全に杞憂に終わりました。
コロナ渦で経済が窮屈になっている中、すごいことです。
そのあたりは、世の中の流れに任せています(笑)。競馬の市場が活性化するためには、賞金を上げることがすべて。正しく言えば賞金ではなく格≠ネんだけど、賞金が上がれば格は付いてきますからね。
積極的に日本馬が海外遠征をしても、海外の強豪馬がなかなか日本に来てもらえない状況が続いていますね。
勝てないからでしょう。今度、東京競馬場の内馬場に国際厩舎ができるから、今後は変わっていくと思いますが、日本の馬が強すぎるんだと思いますよ。
近年、数多くの日本馬が海外で好成績を挙げています。
スピードに関しては日本馬が世界最高レベルでしょう。スピード不足の馬は、日本の芝では勝てないようになっていますから。ただ、スタミナに関しては、海外の馬に付け入れられる隙があるかもしれませんね。
スピードもスタミナもあれば無敵ですね。
それはそうですね(笑)。だからサウジアラビアでもすぐに結果が出たんですよ。作ったばかりで雨も降らないんだから、高速馬場になるのは当然。ドバイも理想的な競馬場を作ったものだから、変な不利が生じない分、スピード能力が大きく問われる競馬場になった。それなら、日本馬が強いですよね。
日本でGIを勝っていないオーソリティ(ネオムターフカップ)、ソングライン(1351ターフスプリント)、ステイフーリッシュ(レッドシーターフハンデキャップ)が勝利しました。
日本で勝つほうが難しくなっているのかもしれませんね。
確かに日本では、1勝するのも、大変だという声が聞こえてきます。
みんな早くからデビューするので、6月に勝つのが大変です。今でも未勝利馬に強い馬がゴロゴロいますからね。
年が明けると未勝利戦もダート戦が中心になるため、芝の中距離戦には、すごい血統の馬が集まってきます。POG本の巻頭に出てくるような馬が、午前中のレースに登場することも珍しくありません。
3月6日の未勝利戦で勝ったシルバーステート産駒のバトルボーンなんて、相当上まで行きそうですよ。重賞も勝てそうな内容でした。
初戦2着でしたが、勝ち馬はダノンベルーガですからね。
そんなのがいるんですよ。シルバーステートもこれだけ走るんだから、種牡馬として価値を上げれば、どんどん重賞ウィナーを出すんじゃないですかね。あと、やっぱりモーリスは走るね。世界で今一番強いのが、モーリスの仔だと思いますよ。
オーストラリアでは、モーリス産駒のヒトツという馬が大活躍しています。
2500m(ヴィクトリアダービー)と1600m(オーストラリアンギニー)の両方を勝つ馬なんていないですよ。モーリスにとっても、価値あるものになりましたね。
しかもオーストラリアンギニーの1番人気はディープインパクト産駒でしたよね。
ディープの仔はヨーロッパで走りまくっているから、すでに圧倒的な人気を獲得しています。日本の種牡馬が優秀なんですよ。昨年はアメリカ(産駒のラヴズオンリーユーがブリーダーズカップ・フィリー&メアターフを勝利)も勝ったので、日本馬の評価は世界で上がり続けています。
アメリカでは同日、マルシュロレーヌ(ブリーダーズカップディスタフ)も勝ちました。
あれは会員さんのパワーだね(笑)。アメリカでダートのGIを勝てるなんて思いもしなかった。
代表が以前からお話されていたダート路線の活性化に、拍車がかかりそうです。
ダート種牡馬の種付け料も以前は100万円くらいだったのが、今は300万円くらいまで一気に上がってきましたが、それは当然のこと。世界で賞金が高いのは、ダートのレースなんですから。だから日本にも、ダートの大きなレースがないといけませんよ。
賞金を上げて格≠上げるという話につながりますね。
芝だって追いつけ追い越せでやってきた結果、ここまで日本馬が強くなってきた。ダートにしても、もっと力を入れれば、アメリカ馬との差もいつか埋まりますよ。
日本馬が強くなっていった遍歴をずっと見てきた代表の言葉ですから、重みがあります。
昔は海外に行けば、すごい馬ばかり見ていて感動していました。コロナ禍になってからは海外に行けてないけど、そんな感動を覚えることは、しばらくないですね。うちの1歳馬が、一番揃っているんじゃないかな(笑)。
ものすごい自信です。2歳馬の自信についても、お聞きしたいのですが(笑)。
もちろん素晴らしいですよ。育成のノウハウが向上して、蓄積していっているわけですから。今やっていることは、日本が世界で一番進んでいると言って間違いないです。
だから3歳より2歳。2歳より1歳と、自信を深めているんですね。それにしても、日本馬がこれだけ海外のレースで勝てるということは、逆に世界はあまり伸びていないということになるのでしょうか。
ここ20年くらい、レベルの高い繁殖牝馬がどんどん入ってきている。うちだけじゃないですよ、他の牧場にもね。その馬たちの血が、日本で育まれて、しっかり鍛えていけば自然と結果は付いてきますよ。
確かに日本には、トップクラスの馬を売るという発想はないですね。
ドバイやアメリカで活躍した馬を海外のようにセリに出そうなんてことにはならない。絶対に売りません。その仔をぜひ見たいしね。
それが追い付け追い越せ≠ナやってきた日本競馬の流儀なんですね。
そうですね。
今年の新種牡馬について話を聞かせてください。
サトノダイヤモンドの仔は、生まれてからずっといい。見た目がすごくいいんですよ。短距離タイプだとは思わないけど、順調な馬が多いから、早くから活躍できる馬もいるはずですよ。
中長距離路線の主役になる馬が出そうですね。リアルスティールはいかがですか。
そこまで、目立つ繁殖に付いているというわけではないのだけど、みんな順調ですし粒は揃っていますよ。血統的にも、スピードはあるだろうから期待しています。ディープの仔って、種牡馬として最初はあまり評価されないんですよね。 それでもキズナやミッキーアイルの仔たちは走っていますし、リアルスティールも大丈夫でしょう。見た目はいいから。
最後に、ドゥラメンテ産駒についても教えてください。
相当付けているから世代を代表する馬を出したいですね。タイトルホルダーなんて菊花賞を逃げ切っているわけでしょ。3000mを逃げ切るのは、なかなかできないですよ。ノーザンファームから、そうした強い馬を出したいですね。
本コンテンツは、黄色のPOG本 「POGの王道」2022-2023(双葉社)の一部を掲載しています。