セレクションセール2018

セレクションセール2018 総括

 海の日でもある7月16日。翌日のセレクションセールを控えたHBA北海道市場には多くのバイヤーが足を運び、最高のコンディションでこの市場に臨んできた上場馬たちに目を凝らしていた。

「前日展示から駐車場に車が入りきれなかった、との報告を受けたときには驚きを感じました」

 とは木村貢市場長。後にこのセレクションセールにおける購買登録者数は584名と、セール史上最多だった昨年(538名)から、更に数を増やしたことが明らかとなる。

 セレクションセール当日も、開場時間となった午前8時を境に駐車場は埋まっていく。バイヤーたちは上場馬が管理されている厩舎を訪ねるだけでなく、四肢のレントゲン写真画像や、上部気道内視鏡動画が閲覧できるレポジトリーも、ひっきりなしに人の出入りがあった。

 一節によると、このセールでも高い評価を集めた上場馬の中には150回を超えるような閲覧数があったという。現在、レポジトリーはオンライン上でも見ることができるが、その視聴数も含めると、閲覧数は何倍もの数字となったはず。木村市場長が記者会見で話していた、「セリの透明性と公平性」がバイヤーにも浸透してきたことを表すエピソードと言えよう。

 今年のセレクションセールにおける大きな改革と言えば、もう一つの選抜市場である「サマープレミアムセール」の導入と言える。セレクションセールと共通の血統基準をクリアした上場希望馬は、セレクションセール選考委員会による実馬検査を経た後に上場が決まるのは一緒なのだが、生産者にとっては、成長や市場のニーズを見定める形で、上場する市場の選択が可能となった。

 その影響もあるのか、上場頭数は193頭と前年(226頭)から数を減らしたが、史上2番目となる高い売却率(77.2%)にも証明されたように、購買者にとってはさほど変わりの無い風景に映っていたのかもしれない。

 上場番号1番となるダイワサンルージュの2017(牡、父キンシャサノキセキ)が1350万円で取引されると、そこから10頭連続での落札と活発な取引が続いていく。この日、最もセリが白熱したのは、上場番号30番として姿を見せたアポロティアラの2017(牡、父ロードカナロア)。父は昨年のフレッシュサイアーチャンピオンで母は重賞勝ち馬。そして、展示では多くのバイヤーの視線を集めたように、好馬体までも備わっていた、このセールにおける最大の注目馬。会場の至る所からスポッターの声がかかり続け、落札金額は4千万円を超えていき、「4100万」に電光掲示板が変わった時に鑑定人のハンマーが落ちた。

 販売申込者となった山際牧場の山際景路代表は、

「母のスピードが生かせる配合ということで、ロードカナロアを選びました。この市場までは、様々なアクシデントもありましたが、これだけ高い評価をいただけたのは光栄ですし、オーナーに還元できるような活躍を残してもらいたいです」

 と笑顔を見せていた。今年のセレクションセールでは、フラワーロックの2017(牡、父ロードカナロア)が3100万円、アートスタジオの2017(牡、父ヘニーヒューズ)に3400万円と、昨年のフレッシュサイアーランキングで好成績を残した種牡馬の産駒たちに高い評価が与えられていた。その一方でこの1歳世代が初年度産駒となるエピファネイア、キズナに対しても、その期待度が加味されたかのように高額落札馬が誕生していく。

 3400万円で落札されたユメノオーラの2017(牡、父エピファネイア)は、昨年に亡くなった母の忘れ形見となる。

「当歳の品評会でも高い評価をいただいていましたし、この市場で是非とも多くの方に見ていただきたい馬だと思っていました」

 

 と話すのは田中スタッドの田中駿さん。次々と電光掲示板の数字が書き換わる度に、様々な思いがこみ上げたのか、「涙が出てきました」と取材陣を前にして思いを漏らす。やはり新種牡馬に魅力を感じて、エピファネイアを選んだと配合の意図を語ってくれた。近年のセレクションセールでは、新たな可能性とリーズナブルさを有した、新種牡馬を血統基準の中に取り入れているが、ユメノオーラの2017の売却成績に表れた評価の高さからしても、その試みはバイヤーの興味を大いに集めたと言えそうだ。

 木村市場長からも、

「新種牡馬を中心として、バラエティ感のある上場馬を揃えることができました」

 との話が出ていたように、2歳馬がデビューを重ねているジャスタウェイ産駒やケープブランコ産駒、また、GT馬を送り出しているキングカメハメハ産駒やルーラーシップ産駒に対しても高い評価が与えられていく。

 売却率こそ高かったとは言え、3千万円以上の落札馬の数(10頭)が前年(17頭)より減った影響もあってか、平均価格の1459万3289円(前年は1565万3261円)、中間価格の1300万円(前年は1400万円)と数字を落とす形となった。それでも、セレクトセールの記者会見で、吉田照哉氏(日本競走馬協会会長代行)や吉田勝己氏(日本競走馬協会理事)も話していたように、セレクションセールもまた、バイヤーから『健康的な市場』としての認知をされたとの見方もできる。

 落札頭数と高額落札馬の減少は、セレクションセール史上最高の売り上げを記録した前年(28億8020万円)から、約7億円の減となる21億7440万円の数字としても表れたが、それでも木村市場長からは、

「選抜市場をサマープレミアムセールと分割した影響は出てくると思っていました。むしろ注目すべきは売却率と思っていただけに、合格点を与えられる市場だったと言えるのではないでしょうか」

 とこの数字は想定内の結果であるだけでなく、活発な市場が展開されたことを評価する声が聞かれていた。昨年との比較という意味ではサマープレミアムセールだけでなく、サマーセールを含めた数字を見てから判断したいとも述べていたが、

「この数字を見ても、お買い求めになれなかった購買者の方も多数いらっしゃると思いますし、サマープレミアムセール、サマーセール共に活発な取引が期待できると思っています」

 と笑顔を見せていた。


(数字は全て税抜き)

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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