セレクトセール2018

セレクトセール2018 総括

2018年セレクトセール

 9日に行われた、セレクトセールの1歳セクションの後、日本競走馬協会の理事として囲み取材に応じた吉田勝己氏(ノーザンファーム代表)は、

「種牡馬の血統に関係なく、良質の上場馬に対して高い評価がされた『健康的な市場』」

 と振り返っていた。

 一方、10日の当歳セクションの後、セレクトセール全体を振り返る形で報道陣に囲まれた、日本競走馬協会会長代行の吉田照哉氏(社台ファーム代表)もまた、

「高額で落札された馬たちの血統からしても、購買者の方がいい馬を数多く探してくれた、『健康ないいセリ』が行われたと思います」

 との吉田勝己氏と同様の言葉が返ってきた。

 9日の1歳セクションでは売却率90.6%、平均価格の4585万円、売却総額の96億7450万円の全てが1歳セクションレコード。当歳セクションは売却率の88.7%こそレコードを更新。ただ、昨年の当歳セクションにおいて5億8000万円で取引された、イルーシヴウェーヴの2017(牡、父ディープインパクト)のような、記録的な高額落札馬の頭数が減った影響もあってか、平均価格の4028万円、売却総額の82億5750万円共に昨年から数字を落とした。

それでも2日間開催となってからの当歳セクションでは、史上2番目の売り上げを記録しており、1歳セクション、当歳セクションを合わせた総売上額は179億3200万円と前年(173億2700万円)を超えるセールレコード。何よりも2日間を合わせた売却率は89.7%という驚異の数字を残した。

今年の「セレクトセールの歴史」の原稿において、この総評が、

「昨年を上回るようなストロングセールが…」

 といった書き出しとなるのではと表記していたが、実際に行われたのは、吉田照哉代表、そして、吉田勝己代表も語っていた「健康(的)な市場(セリ市)」だったと言えるだろう。

 空前絶後と言えるような売り上げを記録している市場に対して用いられる、「ストロングマーケット」との言葉。この売り上げや売却率を見る限り、セレクトセールが「ストロングマーケット」であることに変わりは無いのだが、それでも「健康的な市場」との言葉が2人の代表から出てきたのは、「ストロングマーケット」の躍進を大きく支えてきたディープインパクト産駒以外からも、活発な競り合いの起こる種牡馬の産駒が、続々と誕生してきたことを指しているとも言えそうだ。

 1日目の1歳セクションだが、ダブルミリオンの取引馬は4頭誕生した中のうち2頭はハーツクライの産駒。またキングカメハメハ、ブラックタイド、ジャスタウェイもミリオンホースを送り出していた。2日目の当歳セクションでも、2億9000万円で取引されたリアアントニアの2018(牡)、1億8000万円で取引されたシルヴァースカヤの2018(牡)と、ディープインパクト産駒が上位を占めている。

だが、この当歳世代が初年度産駒となるドゥラメンテを父に持つアイムユアーズの2018(牡)が、2位タイとなる1億8000万円。モーリスを父に持つラスティングソングの2018(牡)も1億7000万円で取引が行われただけでなく、現3歳世代の活躍が目覚ましいロードカナロア産駒も2頭のミリオンホースを送り出した。

 ここ数年のセレクトセールは、マスコミ的な視点からすると、

「今年のセレクトセールはどれだけの売り上げを記録し、どれだけの高い売却率となり、そしてディープインパクト産駒からは、どれほど高い評価を受ける取引馬が現れてくるのだろう」

 ということに注目が集まっていた印象もあるが、実際のところ、上場者側が21年前から変わらずに行ってきていたのは、

「種牡馬の血統に左右されない質の高い生産馬を、最高の状態でセリへと送り出すこと」

 であり、その事実が改めて今年のセール結果で明らかとなっただけなのかもしれない。

 勿論、今後のセレクトセールでも、母馬のブラックタイプや競走成績などが優れている、ディープインパクト産駒たちに対して、ミリオンを遙かに上回るような評価が与えられる取引馬が誕生していくことはずだ。しかしながら、生産者側が飽くなき血統更新を続けてきた結果、同じように上場されていく他の種牡馬の産駒の血統構成も超一流となっている。またその時の話題性や、引退後に種牡馬、あるいは繁殖牝馬となった際の価値も含めた付加価値が、落札価格に反映されていくことも充分にあり得るはずだ。

早くもGT馬を送り出したオルフェーヴルやロードカナロア、また、2歳戦から産駒が好調な滑り出しを見せたジャスタウェイ。そして、取引価格からしても、購買関係者の期待がうかがえるドゥラメンテやモーリスに対して、高い評価がされるであろうセレクトセール。勿論、ディープインパクトやキングカメハメハ、ハーツクライといったトップサイアーだけでなく、来年のセールまでに更に評価を上げてくる種牡馬の産駒や、当歳セクションにはキタサンブラックを始めとした、話題性溢れる初年度産駒たちもラインナップされてくる。

 こうして展開されていく「健康的な市場」は、活発な競り合いに繋がり、それは更なる売却率のアップと、取引価格の上昇にも繋がっていくはず。今後は「健康的な市場」となっていきそうなセレクトセールだが、その結果として来年以降も「ストロングマーケット」が展開されていくに違いない。


※取引価格は全て税抜 
(村本浩平)

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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