セレクションセール2016

セレクションセールの総括

鑑定人のハンマーが落とされ、落札馬となった上場馬が会場の外に姿を見せる。そこに待ち構えるのは上場者である生産者、もしくはセリまでの馴致を手がけたコンサイナーたち。その誰もが一応に表情をほころばせながら、「おめでとう!」と声をかけてきた知人と握手を交わしていく。今年の「セレクションセール2016」では、そんな光景を幾度となく目にした。

19日に新ひだか・HBA北海道市場で開催された「セレクションセール2016」。朝から降り続いた雨は、会場の外で周回する上場馬たちを冷たく濡らしたが、熱気が最後の上場馬まで冷めなかった会場内では、過去に例を見ないほどに白熱したセリが行われた。

この日、最初の上場馬となったシタールの2015(牡、父ロードカナロア)は、いきなり昨年の最高額馬、ルビウスの2014(牡、父ディープブリランテ)、ハートオブクィーンの2014(牡、キングズベスト)の2800万円を上回る、3100万円で(株)KTレーシングが落札。その後は主取りが続くも、ムーンザドリームの2015(牡、父ルーラーシップ)が3900万円で曽我司氏に落札されると、セリは一気にヒートアップ。一時は50%台となっていた売却率も70%台に近づくほどに回復していく。

セレクションセールでは最近、滅多に聞かれなくなった鑑定人からの「5000万円!」の声を会場内に響かせたのは、テンイムホウの2015(牡、父ルーラーシップ)だった。落札者は(同)雅苑興業。生産者である(有)辻牧場の辻助氏は、

「これだけの高い評価をいただいたのは光栄なことです。小ぶりな馬体ながらも動きが良く、血統からイメージされる通りの競走馬になってくれるはずです」

と先々の活躍にエールを送っていた。

こうした高額落札馬誕生の背景にあるのは、活発な競り合い。それは血統、馬体共に高い評価が揃った、まさに「セレクション」された上場馬が揃った証であり、また、HBA関係者によって練り上げられた上場順は、次なる上場馬への興味をバイヤーに持たせ続けていく。その結果、活発な競り合いが続き、売却率の上昇、そしてセールの平均価格も押し上げていく結果となった。

また、テンイムホウの2015の評価額にも証明された、ルーラーシップ産駒は9頭が上場され、うち8頭が落札。その全てが平均落札額を上回る高評価を受けた。また、スクリーンヒーロー産駒は6頭の上場馬全てが売却され、シャンハイロックの2015(牡)は森岡幸人氏が3000万円で落札。アーリースプリングの2015(牡)も2900万円で(有)ビッグレッドファームが落札と、特定の種牡馬の産駒が活発な取引の主役を務めていた。これも血統を重視して選定を行った主催者の戦略が功を奏したともいえる。

その中でも特に目立ったのは、まだ日本で産駒をデビューさせていない新種牡馬の産駒たち。ハードスパン産駒のダイワエンジェルの2015(牡)を、3900万円で里見治氏が落札。14頭の上場馬で10頭が落札されたロードカナロアの産駒からは、レオソレイユの2015(牡)が、このセール2位となる4100万円の高評価で、鈴木可一氏が落札している。こうした新しい種牡馬の産駒の上場に際しても、HBAでは選定の際に重視したとのことであり、結果として同時期に行われるセレクトセールや他の競走馬市場との差別化が、血統面からも図れたとも言えそうだ。

勿論、コンサイナーを中心とした上場馬の馬作りは年々向上し、初めてHBAの定期市場に足を運んだバイヤーにも目移りしたはずだ。そのバイヤーをもてなすウエルカムパーティーも、セリ前日の18日に開催。また高級車の販売といった様々なブースも用意されるなど、定期市場の中でも「セレクションセール」というブランド力を高める狙いも、好意的に受け止められていた。

この日の最後となる238頭目に姿を見せた、ナパの2015(牡、父エイシンフラッシュ)も、2300万円で(有)ビッグレッドファームが落札。その後、再上場馬2頭のセリが終わり、鑑定人からセリの終了を告げる挨拶がされると、会場内には好況を称えるかのように大きな拍手が鳴り響いた。

総売上額は23億3880万円を記録し、昨年(19億610万円)との比較では4億円以上のアップ。平均落札額も1336万円と、昨年(1148万円)よりアップした。売却率も73.5%と、昨年(71.2%)を上回った。この総売上額と売却率はセレクションセールのレコードともなっている。

セール終了後に取材陣に囲まれた木村貢市場長は、

「セリ前日(18日)の事前展示からも購買者の方々の熱気が伝わってきて、いい市場ができるのではと思っていました。それでも想像した以上の結果が出ましたし、私の経験した中では一番の競走馬市場だったと言えるのではないのでしょうか」

と笑顔で語っていた。その要因として木村市場長はいくつかの複合要因をあげており、その中では将来有望な種牡馬の産駒を多数揃えられたこと、セレクトセールの好況による波及効果、そして、近年における地方競馬の売り上げアップも大きいのでは、とも語っていた。実際に購買者登録数は昨年の426名から474名に増えており、その内訳の中には、セレクトセールにも購買者登録を行っていたオーナー、そして地方競馬で馬を所有するオーナーもかなりの数がいたはずだ。

来年以降のセレクションセール、そしてHBAの定期市場としては8月22日から開催されるサマーセールについても質問された木村市場長は、

「セレクションセールでは、年々増加している購買者のニーズに応える市場を行っていきたいと思いますし、「セレクション」というブランド力を落とさないためにも、上場頭数も今年と同じ250頭ほどで開催していきたいと思います。また、今年のサマーセールは5日間での開催ということで、購買者の方には様々な面でご迷惑をおかけするかと思いますが、今回のセレクションセールで購買が出来なかったという方を始め、一人でも多くの方に足を運んでもらいたいと思います」

とも話していた。

セレクションセールレコードとなった総売上額、売却率だけでなく、5000万円という高額馬の誕生も含めて、まさに「セレクション」という名にふさわしい競走馬市場となった、セレクションセール。HBAが主催する定期市場としても高い基準ができたことは、これから開催されるサマーセール、そしてオータムセールにもいい影響をもたらして行くに違いない。

※落札額、売却総額、平均落札額は全て税抜き

(村本浩平)

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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