セレクトセール2016

セレクトセールの総括

1歳セクション、当歳セクションの二日間での開催となって以降の2010年からは、毎年のように総売上額を更新し続け、2012年には100億円を突破(102億9630万円)。その後も毎年10億という単位で総売上額を押し上げてきたセレクトセールは、今年ついに、149億4210万円という驚異的な数字を記録した。

昨年の131億7350万円という総売上額を見たときにも驚かされたが、その数字よりも約18億円もの増。会場で白熱したセリを見てきた自分でさえ、この結果は信じられない思いがしている。

左:サトノダイヤモンド(マルペンサの13) 右:ロイカバード(アゼリの13)

実際に今年のセレクトセールを取り巻く状況は、決して良いとは言えなかった。先日、発表されたイギリスのEU離脱と、それを要因として起こった急激な株価下落と円高。競走馬市場は景気に左右されるところも多いとされており、実際にリーマンショックの影響を受けたと思われる2008年と2009年、そして2010年は毎年のように総売上額を落としていた。

しかし、「セレクトセール2016」における、一頭目の上場馬が鑑定台に姿を見せると、会場外の不況などどこ吹く風といったように、活発な取引の声が次から次へとかかり続ける。1歳セクションは87.9%という売却率こそ前年(88.2%)を下回ったものの、売却総額は昨年(71億450万円)を約10億上回る81億3060万円を記録。一頭辺りの平均落札額も昨年(3383万円)からアップし、3747万円を記録した。

それまでのセレクトセールは、当歳セクションだけで開催されてきた年が7年(1999年から2005年)あり、1歳セクションと当歳セクションが共に開催されるようになったのは2006年から。2010年からは1歳セクションと当歳セクションの上場馬の頭数がほぼ同数となった。

世界的に競走馬市場と言えば1歳セクションが中心であり、それ以降のセレクトセールは、世界のバイヤーも参加しやすいセリともなった。それは日本のバイヤーも一緒であり、より競走馬としての姿に近づいた上場馬を吟味できることが、売却率の上昇にも証明される、活発な取引に繋がった感がある。

一方、当歳セクションの売約率は74.6%と昨年の売却率(79.3%)よりポイントを落としたものの、一時は平均落札額が5000万円を超えるほどに盛り上がったセリが展開されていく。最後の上場馬にハンマーが落ちたときの平均落札額は、ピーク時よりも数字を落としたものの、それでも3937万円と昨年(3298万円)を大きく上回ったどころか、2006年に記録した当歳セクションの平均落札額(3774万円)を超える過去最高を記録。売却総額も、68億1150万円と、前年(60億6900万円)より大幅にアップした。

「安定」や「安心」を上場馬に求める1歳セクションと比較すると、当歳セクションは未知なる期待が落札額に反映される傾向にあるようで、それはこの世代がファーストクロップとなるジャスタウェイの産駒である、アドマイヤテレサの2016(牡)に、1億4000万円という評価がされたことにも証明されている。また、初年度産駒は来年デビューとなるオルフェーヴルの産駒も、ホエールキャプチャの2016(牡)に1億7000万円、プリティカリーナの2016(牡)にも1億円という高評価がされている。

1歳セクションの後に記者会見に応じた、日本競走馬協会理事の吉田勝己氏は、

「景気状況が良くなかったので、セリにも影響がでるかと思っていましたが、多くのお客様に足を運んでいただき、活発なセリを行うことができました。これも日本馬が海外で活躍をしていることも大きいのでしょうし、実際に海外から来られた方にも多数購買していただくことができました」

と話している。その際、吉田氏はセレクトセールに先駆けて行われた、Tattersalls July Saleにも触れ、

「その際にも高額落札馬が誕生したと聞いて驚いていましたが、馬の世界はこうした経済状況と別ものなのかもしれないですね」

とも話していた。

まさに「ストロングセール」との呼び名にふさわしいものとなったセレクトセール。しかし、それはこれまで積み上げてきた18年の歴史の中で数々の名馬を送り出してきた一方で、時代背景にあったシステムの変換を図ってきただけでなく、上場馬の管理も含めた更なるレベルアップなど、毎年のように「プラス」を加えてきたことが、売り上げの「プラス」にも証明された印象を受ける。

購買登録者数も、昨年の553名から19名増の572名となり、その中には24名の外国人バイヤーも含まれている。当歳セクションの後、その件について質問を向けられた、日本競走馬協会の吉田照哉会長代行は、

「海外の方からは、例年以上に本気で購買しようという印象も感じられましたが、その予想を超えるような取引が行われたことで、昨年(22頭)ほどの購買頭数に落ち着いたようです。取引馬の中には日本でオーナーシップを取るだけで無く、海外でも走らせようとする動きもあるようですし、それだけ開けた競走馬市場になっているのかもしれません」

と話していた。

「ストロングセール」としてその地位を揺るぎないものとし、そして来年以降はこれまで以上に外国人バイヤーも参入してきそうなセレクトセール。昨年(2015年)の総括の締めで使った言葉である「今年のセレクトセールも、従来のセールレコードを塗り替える・・・」 と類似した表現は、どうやら来年のセレクトセールの総括でも用いられることになりそうだ。

※落札額、売却総額、平均落札額は全て税抜き

(村本浩平)

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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