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調教捜査官・井内利彰さんが解説!調教ってどう見るの? タイトル

ウッドチップコースの調教タイムについて

○トラックコースの自動計測はココが違う

 現在、美浦と栗東のトレーニングセンターにおける調教タイムは坂路コース(美浦、栗東)とトラックコースのウッドチップ馬場(美浦・南馬場Dコース、栗東Cコース)の計4箇所になります。

坂路の場合、全馬スタート地点が同じです。しかし、トラック馬場の場合、馬場へ入場する場所により、スタート地点が異なり、計測される区間に違いが出てきます。

栗東Cコース

 例えば、栗東Cコースの場合。1周1800mの距離なので、正面入口から入場するとすぐに最初のハロン棒を通過します。これがゴールであり、スタート地点ということになり、9Fの時計が計測されることになります。

 「追い切りって6Fとか5Fじゃないの?」と思われる方もいるでしょう。確かに調教師の指示として「6Fから15秒くらいで入って」といったオーダーが出るので、追い切り自体は6Fになることが多くなります。よって、正面から入場する場合は最初の3Fをキャンターの区間としてゆったり入り、6F標識から「行くよ」と馬に合図を出しながら追い切りというわけです。
 ただ、馬によっては馬場入りした時点で力んでしまい、折り合いが難しいタイプもいます。そんな場合、栗東なら2コーナーから入場すると、すぐに6F標識が来るので、折り合い難を気にすることなく追い切ることができます。

 そんなわけで、トラックコースの場合は馬の特徴や厩舎の意図する調教負荷に合わせてスタート地点をアレンジできます。美浦は南馬場Dコースが1周2000mですから、正面から入場して追い切りとなると、10Fの計測になります。ただ、12月8日に南Dで10Fから時計を出しているのは16頭しかおらず、馬場入りした509頭から見ると、わずか3%程度ということになります。ということで、美浦は圧倒的に6Fからの計測になっている頭数が多くなっています。
 逆に栗東は馬場入り398頭(12月8日)に対し、9Fからの計測が半数以上。自動計測が導入されたことで、美浦と栗東によるトラックコースでの調教距離に大きな違いがあることが分かりました。

○トラックコースのタイムの見方

美浦Dコース

美浦調教タイム

 調教タイム自体は6Fからの計測ですが、いわゆる追い切りと判断される1F15秒前後でスタートするのは5Fからというケースが多いようです。そのため、競馬新聞などの調教欄には5Fから時計が掲載されることが多くなりますが、JRAーVANだと計測の素データを見ることができるので、6F区間の入りがどのくらいか確認することができます。

 6F区間が17秒や18秒で、5F区間から15秒を切るようなラップで加速していくと、ゴールへ向かって減速することないラップを踏みやすくなります。しかし、6F区間で16秒前後のラップを踏んでいれば、それだけスピード乗りが早くなり、ゴール前では減速しがちです。ですから、6F区間で速いラップを踏んでいるにも関わらず、ゴールに向かって加速し続けるラップを踏めている場合は長く脚を使えるタイプの馬だと判断してよいでしょう。

栗東Cコース

栗東調教タイム

 12月7日から運用され、15日までの調教タイムを確認しましたが、5F区間で少しラップが速くなり、4F区間でラップを遅くするというケースがありました。

 この区間はちょうど3コーナーの手前にあたり、馬とすれば「さあ、いくぞ」という地点。特に栗東の場合は正面から入って、この地点に来るまで4F、800mくらい走っているわけですから、うまく加速するラップを踏む方が難しいという見方もできます。それでも、レースに行けば、他馬との競り合いがあり、もっと速いペースで道中を進めるわけですから、調教のスピードなら、1Fごとにうまく加速していくラップを踏むことが、レースで脚をためて走ることができる練習になると考えた方がよいでしょう。

 自動計測のタイムはトレセン事務所にて、厩舎ごとに出力して確認することができます。このあたりのタイムを見ながら、乗り手も「こうやって乗っていこう」ということを考えていくはずなので、もう少しラップの踏み方を見守る必要もありますが、現時点では5F区間前後のラップがきれいな加速になっているかどうかを確認してみるとよいでしょう。

○厩舎別調教タイムの見方

 JRAーVANで提供される自動計測のタイムを使って、1着時に特徴のある厩舎を取り上げてみました。「厩舎」という側面から調教タイムを見る際に活用してみてください。
 下記において「4F目が最速」という表現が出てきますが、これは1F目から4F目にかけて、徐々に加速していくラップで、かつ4F目が最も速いラップの場合です。

美浦・手塚貴久厩舎

 南Wでの追い切りが中心となる厩舎ではありますが、坂路での追い切りも積極的に併用します。週中が南W、週末が坂路というパターンが多くなっていますが、ここでのポイントは週末坂路の2F時計とラップです。
 今年の新潟記念を勝ったマイネルファンロンはレース前週の日曜日(8月29日)に2F26.3秒で4F目12.8秒の最速ラップを踏んでいました。週末にしっかり時計を出してくることは好調ということでしょうし、2F時計が27秒以下で4F目最速というのが、ひとつの目安だと考えてよいと思います。

美浦・鹿戸雄一厩舎

 南Wでの追い切りが中心の厩舎ですが、あまり速い時計を出さないので、一見しただけでは好調不調の見極めが難しいと思います。しかし、追い切りをラップで解析すれば、1着馬には共通点も見えてきます。
 それが、最終追い切りが南Wで3Fタイムのラップが14秒台から2Fタイムのラップが12秒台まで一気に加速すること。例えば、天皇賞秋を優勝したエフフォーリアの最終追いは南Wで3Fタイムが14.6秒で、2Fタイムが12.6秒。2秒も加速しています。そこまでの区間をきれいに加速するラップを踏み、1Fタイムが11秒台がベスト。右回りでも左回りでも南Wの追い切りではこのラップの踏み方で結果を出しています。

栗東・杉山晴紀厩舎

 12月12日終了時点で、2021年はJRAで34勝を挙げていますが、うち2勝が二桁の単勝人気でした。いずれもハーフバックなのですが、最終追い切りが坂路で4F目が最速になるラップを踏んでいました。
 オーロCを勝った時のハーフバックの最終追い切りはラップにすると、14.6秒、13.7秒、12.6秒、11.9秒。4F目が最速であれば、具体的な数字は問わないのですが、ハーフバックは2勝とも4F目が11秒台を踏んでおり、かなり速いラップでした。

栗東・斉藤崇史厩舎

 12月11日の3歳上2勝クラスを勝ったバーデンヴァイラーが、斉藤厩舎の自動計測になって最初の最終追い切りCWでの勝利。このラップが6Fからゴールへ向かって、きれいに加速しつつ、2F、1Fがいずれも11秒台のラップを踏んでいました。
 手動計測時から、全体の時計が遅くても、最後の直線で速いラップを踏むことができた時に好結果を残している印象があっただけに、この結果には納得。6Fからのラップできれいな加速が難しいCWではありますが、そこをきれいに加速できているということは、折り合いに心配がないと好評価してみてください。

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