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馳星周さん

小説家馳星周さん

いっちぃの千客万来

取材・文:市丸博司/パソコン競馬ライター
写真:野呂英成

ふるさと浦河町で過ごす夏

さて、競馬をはじめて2年から3年と言いますと、そろそろクラブ馬主に出資してみようとか、1頭まるごと馬主になってしまおうとか、そのようなお考えは?

馬主になるつもりはないんですよ。競走馬にはどうしてもケガや事故がつきもので、もし自分の馬が競走中に事故に遭って天に還ってしまうようなことがあれば、僕も妻も耐えられないなと思って。ですから、お金は馬主になるためではなく、引退馬のために使おうと思っています。

今は、そのようなクラウドファンディングもありますね。

そうですね。角居先生(調教師)が立ち上げたところにも寄付をしましたし、ステイゴールドの一族ですと、種馬を引退してヴェルサイユリゾートファームにいったオーシャンブルーのための寄付もしました。

そのような支援の輪がどんどん広がっていくといいですね。そんな牧場もある北海道ですが、先生は夏の間、浦河に滞在されていると……。

今年はコロナがあったのと、本州があまりにも暑いようだったので長くいましたね、7月1日から2カ月半ほどです。北海道でも暑くて、本州はいったいどんなことになっているのかと思えば、知人によると(自宅のある)軽井沢でも毎日30度を超えるという話でしたから。

馳星周さん

競馬ファンになられてから、日高での行動が変わられたりしましたか?

まずその浦河で夏を過ごすようになったことが、競馬をはじめたことと関わりがあるんですよ。NHKのある番組が浦河でロケをすることになり、その「浦河にゆかりのある人物」ということで出演のオファーがあったんです。

差し支えなければ、どんな番組だったのでしょう?

俳句の番組だったんですよ。俳句のことはよく知らないですし、そのころはちょうど忙しく、北海道に行く時間もないので最初は断ろうかと。

そうなんですか!?

しかしはたと、妻は1回しか北海道に行ったことがない、その1回も祖母の葬儀でしたので故郷をじっくり見せたことがない、と思ったんです。また、せっかく2人して競馬を好きになったのだから、馬産地もちゃんと見せてあげなきゃいけないと思い、その仕事を引き受けました。その夏は東京で連日35度という酷暑だったのですが、千歳で飛行機から降り立ったら23度で、浦河まで行くと18度。うちは大型犬を飼っているので、夏はここで過ごせば犬たちも元気になっていいんじゃないかと考えました。また、のちのち競馬絡みの小説を書きたいとも思っていましたので、馬産地で過ごせば取材にもなるということで決めました。

すぐに話は決まったのでしょうか?

番組の楽屋に浦河の町長が挨拶にみえて、そのときなかば冗談のつもりで「夏だけ浦河で過ごすことはできませんか?」と言ったら、とんとん拍子に話が進んで、去年から夏の間だけ過ごすことになりました。

それはご実家とかではなく?

母は札幌に引っ越していますし、祖母は亡くなっているので、浦河にはもう親類はいないんですよ。それで去年は、谷川牧場の社長さんのご厚意で、イーストスタッドの空いている社宅を貸していただきました。毎朝、種牡馬のいななきとともに目覚めると言う生活を送っていましたね(笑)。今年は街中の一般住宅でした。

浦河におられるときは、どのような生活を?

ほとんど仕事です。特に去年は新聞連載をしていたので、毎日仕事をしていましたね。今年は少し余裕があったので、事前には函館や札幌、門別、帯広の競馬場へと、妻とは話していました。

競馬ファンの夏の過ごし方として理想的というか、夢ですよね。

犬がいるので、北海道へはキャンピングカーでフェリーに乗って行くのですけれど、去年どこへも行けなかった分、今年は北海道をいろいろ旅行しようかと話していたんですよ。ところが、まずコロナで競馬場に行けなくなり、そして直木賞をもらってしまい仕事も忙しくなり、結局どこへも行けなかったということになりました(笑)。

それは、競馬ファンの立場としては残念ですね(笑)。

ばんえい競馬も見てみたかったですし、いろいろ計画は立てていたのですけれどね。今年はビッグレッドファームにも行けず、妻はゴールドシップに会えない悲しい夏でした。

夏以外は軽井沢にお住まいとのことですが、もう10年くらいになりますでしょうか?

来年で15年ですね。

軽井沢ですと乗馬クラブも多そうですね。

3年前まで馬には興味がない、興味がないどころか嫌いなくらいでしたので軽井沢で乗ったことはないのですけれど、俳句の番組で浦河に行ったときに乗せてもらいましたし、これから毎年浦河へ行くのであれば、(うらかわ優駿ビレッジ)AERUで体験乗馬もやっているので、ちょっとやってみたいですね。

急に人生ががらっと変わられて……。

おもしろいですね。自分がこんなに競馬にハマるなんて5年前までは思ってもいないですし、夏に浦河で過ごすようになるなんて考えもしませんでしたから。直木賞をもらった直後にいただいたお仕事で新聞のエッセーに書いたのですけれど、馬を嫌って故郷を出たのに、馬に導かれて故郷に戻るなんて、こんなの小説で書いたらハナで笑われるようなできすぎた話だと。でも、そういうことが人生では起きるのだなあ、と。

土日の過ごし方も、一変されたのでしょうね。

以前は土日祝日関係なしに、毎日仕事をしていました。モノを書くという仕事は手習いごとと同じで、毎日やっていないと腕が鈍ると考えていたんです。本当に鈍るかどうかはわかりませんが、取材でどこかへ行くとか、風邪を引いたとかいうことがなければ、毎日モノを書く仕事をしていました。今は、土日は絶対にやりません(笑)。よっぽど締め切りがキツければ、土曜日だけは競馬をあきらめて仕事をするということもありますけれど、基本的には朝から夕方まで、PATをにらみつつテレビの前でグリーンチャンネルですね。

もうどっぷりですね(笑)。

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