ノーザンファーム早来
津田朋紀場長インタビュー

大物を出すためにハードに乗り込みました

朝日杯FSで、1着から3着まで独占したノーザンファーム早来。言わずもがなノーザンファーム早来のタレント選びが、POGの勝敗を決するといっても過言ではないだろう。

昨年の場長インタビューでは、グレナディアガーズとステラヴェローチェをピックアップ。前場長の中島文彦GMから引き継いだ津田朋紀新場長に、インタビューさせていただいた。

初めてインタビューさせていただくので、まずは場長の経歴をお聞かせいただけますか。

津田場長

大阪府立大学4年生の時に、休学してオーストラリアに行き、装蹄師に弟子入りをしたのがこの世界に入ったきっかけです。シャトル種牡馬としてバブルガムフェローを連れて来ていた社台スタリオンの角田修男先生に出会ったのが縁で、帰国後、同じスタリオンのホースクリニックで3年間獣医をして、そこからノーザンファームに入りました。

ノーザンファームでの勤務歴は何年になるのでしょうか。

津田場長

13年です。少しでも多く獣医師としての経験を積むために、半年間ずつ、ノーザンと南半球を行き来するという生活を数年間続けていました。

オーストラリアと日本の違いは大きいですか。

津田場長

私はオーストラリアでホースマンとしてスタートを切ったので、日本に戻ってきた時のカルチャーショックが大きかったですね。

それは特にどのような点でしょうか。

津田場長

日本は手を掛け過ぎているように見えたんです。悪く言うと過保護。もっと親子の関係を大事にしたり、自然な状況下で運動させたいと感じました。

もともとは陸上の選手をされていたとお聞きしました。

津田場長

それからスポーツドクターを志し、獣医の道を選びました。

人間のトレーニングは、競走馬にも応用できる部分があるのでしょうか。

津田場長

はい、その通りです。トレッドミルや乳酸値の測定を導入したのですが、もともとそれは自分が対人用にやっていたことを応用したものです。

そうした改革の途中で場長になられたわけですが、一番やりたいこと、進めたいことが具体的にあれば教えてください。

津田場長

スタッフが楽しく働けるように、風通しの良い組織作りを進めていきたいですね。先ほど話したように、何が正しいかはやってみないと分からないのがこの世界。スタッフ1人1人が果敢に挑戦できる空気感が大切です。思いついたことをしっかり共有できて実現できる環境を作っていきたいと考えています。

馬についてはいかがでしょうか。

津田場長

競馬界全体にいえるのですが、勝った馬のことしか話さないという風潮があると思うのです。

我々も、どうやったら強い馬ができるのかという質問をしてしまいます。

津田場長

レースで負けてしまった馬を忘れてはいけません。走った馬だけのデータを見るのではなく、負けた馬の何が良くなかったのか。調教師、しがらきや天栄、イヤリングと、皆でしっかりとヒアリングする。
そうすると、約6割が仔馬の時から「ここが弱かった」と弱点があったんです。そこにたどり着けるのが、ノーザンファームの一番の強みだと思うんです。

以前から導入されている、オンラインでのデータの共有、管理が役に立っているということですね。

津田場長

その通りです。そして色々と考えているうちに気がついたのが生まれる前のこと。要するに、いかに強い胎児を作るかということなんです。

そんなことが可能なんですか。

津田場長

まだ暗中模索といったところですが、間違いなくできると思います。妊娠後期の馬を見て回り、みんなで議論するという取り組みをしています。すぐに答え合わせができるので、楽しいですよ。

ものすごい領域のお話を聞いている気がします。育成もいよいよそんな段階まできているんですね。

津田場長

実際、胎児の状況を判断して、今一つだと感じた母馬の放牧先や餌を変えると、仔出しが違ってくるんです。

お母さんのお腹にいる時から、良い馬を作る仕事が始まっているんですね。

津田場長

もちろん簡単ではありません。でも、ノーザンファームにはそれができるシステムがあるので、利用しない手はないですよね。

非常に興味深いお話でした。それでは、現2歳世代について、お話を聞かせてください。

津田場長

今年はとにかく食べて、たくさん走りました。イヤリングから送られてきた時に、極端に悪い馬が少なかったので、うまく進められたという手応えを感じています。

津田場長に代わり、スパルタ教育になったということでは……。

津田場長

そういうわけではありませんが、最近、牝馬が強いと頻繁にいわれていますよね。

昨年の芝のマイル〜2400mまでの古馬混合GIは、すべて牝馬が獲りました。

津田場長

ノーザンファームにおいてそれは、牝馬が強いのではなく、日下グループの馬が強いということなんです。

毎年、日下調教主任からは充実した様子のコメントをいただいております。

津田場長

日下グループの調教方法が牝馬にピタッとハマっていて、一方の牡馬は、馬を壊してはいけないという思いが強すぎるからか、調教量が足りていないのかもしれないと。
(牡馬の)林調教主任や横手調教主任は、厩舎長時代から歴史的な名馬を輩出していますが、それらを超えるような新たな牡馬の名馬を一緒に作りたい。そうした強い思いがあります。

昨年はクラシックを獲れなかったことで、悔しい思いをされたことだと思います。

津田場長

僕らのトレーニングが時代に合っていなかったと書いていただいて大丈夫ですよ(笑)。

ノーザンファームの場長にそう話されると、混乱してしまいます(笑)。

津田場長

その年の馬場や番組、種牡馬が変わると、トレーニングの正解もガラリと変わってしまいます。3年前に正解だったことが、今年は最悪のトレーニング方法になっている可能性もあると思うんです。

せっかく見つけた正解を捨てるのは、難しいことだと思います。

津田場長

それがこの世界の厳しいところだと感じています。昨年は、牡馬、牝馬ともに三冠を獲られたのはそのサインだと受け止めています。

常に危機感を持っているということですね。

津田場長

イヤリングから受け取った時点で、現4歳世代は体質的に弱い馬が多かったんです。だから必然的に優しめのメニューになりました。
ただ、今振り返ると“できない”ではなく“やればできた”のではないかと思っています。限界を超えないと競馬は勝てませんし、仕事も面白くなくなりますからね。

そのお話を聞いて今年の「たくさん走った」という言葉が響いてきます。

津田場長

たとえば、(牡馬の)山内厩舎では、周回コースの調教量を増やしました。今の2歳世代は、現4歳世代の約6倍以上も走っているんです。

ものすごい差ですね。

津田場長

1日に乗る本数を1周増やしたり、3周してから坂路を上がるなど、コツコツ増やしていきました。もともと早来は乗りこみ量が多かったんです。しかし、壊しちゃいけないという気持ちが強くなり、自然とソフトになってしまった。
その結果、アベレージは残すけど、大物が出ないことにつながったのではないかと。そこは一番に改善すべきポイントだと思います。

競馬ファンの目線からも、スターホースの誕生は常に待っています。

津田場長

あとは、長く活躍できる競走馬を育てないといけませんね。逞しさは人の手によって与えることができると思いますので。

「ハーツクライ最高の世代」

それでは、注目馬を教えてください。

津田場長

まずディープインパクト産駒だと、牡馬はコンドコマンド19 、牝馬だとテディーズプロミス19 は自信を持ってオススメできます。どちらも3月に移動、6月の出走を目標としています。

新種牡馬の産駒はいかがですか。

津田場長

キタサンブラック産駒は、全体的にバランスが良くて奥行きがありますね。良い馬が揃っていると思います。その中でも期待しているのが、セットプレイ19 (牝)。あとスイープトウショウ19(牝)、ドナブリーニ19(牡)も良いですね。

もう1頭の気になる新種牡馬である、ドレフォン産駒の注目馬も教えてください。

津田場長

インナーアージ19(牡)、メリーウィドウ19(牝)が目を惹きますね。どちらも芝で走ると思います。

2年目となるモーリス産駒はいかがですか。

津田場長

去年に比べて、もう1段階レベルは上がっていると思いますし、来年はさらにもう1段階、レベルが上がりますよ。

それは何かしら理由があるのでしょうか。

津田場長

モーリスってガシッとして大きいので、初年度は小柄なお母さんに付けることが多かったのですが、少し思っていたのと違う形に出たような気がします。繁殖のキャラクターを変えたことで、今年は見映えの良い馬が多いです。具体的に挙げるならベルワトリング19(牝)ですね。

同じくドゥラメンテ産駒も2年目になります。こちらはいかがでしょうか。

津田場長

ドゥラメンテ産駒はフリーティングスピリット19(牡)、リッチダンサー19(牝)の動きが素晴らしいですよ。

あと今年は、ハーツクライ産駒の評判が良いとお聞きしました。

津田場長

ハーツクライ最高の世代ではないでしょうか。ディープに付けていたのが、ハーツクライに流れて良い効果を生んでいる気がします。レッドファンタジア19 (牡)、ドバイマジェスティ19(牡)はかなり走ると思います。

では、最後に津田場長がオススメする穴馬を教えてください。

津田場長

あまり穴っぽく聞こえないかもしれませんが、ジャスタウェイ産駒のバラダセール19 (牝)。
あと、サトノアラジン産駒は動かすと良い走りをするんです。その中でもミスティークU19(牡)、シーカーマ19(牝)が良いですね。それと最後に、オールドタイムワルツ19(父Caravaggio)の名前も覚えておいてください。

思わず驚くような育成の話から、注目の2歳馬まで貴重なお話ありがとうございました。

津田場長

このあと厩舎長から具体的に聞いてみてください。