私の競馬はちょっと新しい
第48回 中央競馬調教師 安田隆行さん
- 「クラシックに出走してタイトルを獲る、それが来年の大目標になります」
- 1953年生まれ、京都府出身。72年に騎手としてデビューし、同年の関西新人勝を受賞。91年にはトウカイテイオーとのコンビで皐月賞、日本ダービーを制した。94年に調教師に転身し、10年にはトランセンドのジャパンCダートでG1初制覇。本年はロードカナロアで日本調教馬初の香港スプリント優勝を成し遂げた。
トウカイテイオーのデビュー当日に1日6勝のJRA記録を達成
市丸:そのトウカイテイオーについてもぜひうかがいたいのですが、安田さんが騎乗されたときはまったく負け知らずで、ダービーまで6連勝されました。
安田:強かったですねえ。今思えば、この俺でさえ勝てたのですから(笑)。
市丸:いやいや、そんなご謙遜を(笑)。
安田:いや、今のジョッキーを見ていたら、みんな素晴らしいですよ。昔に比べると、かなりレベルが高いような気がするんですね。調教師というのは「より高いもの」を望むものですけれど、その望みがかなう気がします。みなさん上手いですわ。自分なんて我流で乗っていて、それで勝てたのですから、トウカイテイオーは本当にすごかったです。
市丸:トウカイテイオーのデビューは90年、中京の芝1800m戦でした。
安田:12月1日、そのとき1日6勝したんですよ。
市丸:1日6勝されたのですか! それは思い出深いですね。
安田:JRA記録で表彰もしていただきました。まずアラブの未勝利(スーパースペシャル)、そしてトウカイテイオー。次にイトマンノリョウシという田中(良平)先生の馬で勝ち、その後、特別を3連勝したんです(アラブ大賞典・ハクサンツバメ、高山特別・タイティアラ、鳥羽特別・ホマレファイヤー)。
市丸:この日は道悪でしたが、トウカイテイオーは圧勝でしたね。
安田:少しゲートの出が悪くて後ろからになったのですが、つかまっているだけで、すいすい、すいすい、楽に先頭に立ってそのまま押し切って、これは強いな、と。本当に強かったです。
市丸:調教でもお乗りになられていたのですか?
安田:ずっと乗せていただいていました。本当に乗りやすい馬でした。引っ掛かることなく、ジョッキーの思うように走らせることができましたし、ああいう馬は走るな、と思いましたね。ガッと引っ掛かる馬は絶対にどこかでロスがあるので、自分の力を100%は出せないものですが、トウカイテイオーのような馬は力を120%出せる感じです。
市丸:ジョッキーの方にうかがうと、よく「背中が違うんだよ」というお話しも聞きます。
安田:それもありますね。また、フットワークがなめらかで、そういう素晴らしい馬でした。
市丸:シンボリルドルフの初年度産駒になりますが、重ね合わせるようなところはありましたか?
安田:シンボリルドルフを間近で見たことはあまりなかったんですよ。ただ藤沢調教師や、岡部さんの話は聞きました。中山の若葉Sに行ったときに岡部さんと「雰囲気が似ているなあ」というような話をしましたね。
市丸:新馬戦のあとは、シクラメンS、若駒S、そしてその若葉Sと重賞は使わずにオープン特別を連勝して皐月賞に臨まれました。断然の1番人気で、これは勝てるという感触は……。
安田:期待はしていました。裏街道的な存在なのでチャレンジャーという気持ちもありましたけれど、不利がなければ勝てるとも思っていましたね。
市丸:皐月賞の走りはいかがでしたでしょう?
安田:18頭立ての大外でしたけれど、良いスタートを切って中団よりも前につけ、なんの不利もなく4コーナーで先頭に並びかけて押し切るという、本当に「横綱相撲」ができました。
市丸:その後のダービーも大外枠でしたけれど、引っ掛からないから全然大丈夫ということになりますか。
安田:かえって大外枠が幸いしたと思います。馬ごみに入るとどうしても不利があったり、不利まではなくても躊躇するところがあったりしますが、そういうことがまったくありませんでしたから。本当に「ふわっと」出て、あとは好きなように走りなさいと(笑)。引っ掛かるところもありませんし、4コーナーでも手応え十分でしたから、乗っていて勝てるという確証を持つことができました。すごく楽でしたね。
市丸:皐月賞の口取りでは1本指を立てられましたが、これは三冠というお気持ちが……。
安田:そうではなかったですね。シンボリルドルフで岡部さんがされていたので、これはしなくてはダメだと、そういう話なんです(笑)。
市丸:ダービーも連勝されましたが、ダービーのほうが皐月賞よりも圧勝というように見えました。
安田:ダービーも本当に楽でした。大外枠からなんの不利もなく、乗っていてまったく心配するところはありませんでした。
市丸:この年のダービーは20頭立てでしたけれど、もっと多かったころは7枠、8枠に入った馬はいらないと言われたこともありました。
安田:このレースもスタートが良かったんですよ。それで1コーナーに入るときは「ダービーポジション」と言われる10番手以内、7番手あたりにすっとつけられました。それで大外をまわることもなく、内でごちゃごちゃしたところに入ることもなく、そつのない競馬ができました。20番枠というのは、あの馬にとっては最高の枠でしたね。
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