私の競馬はちょっと新しい
第36回 ラジオNIKKEIアナウンサー 中野雷太さん
- 「JRAレーシングビュアーを実況の復習に活用しています」
- 1974年生まれ、愛知県出身。東京工業大学生命理工学部卒業後、97年にラジオたんぱ(現ラジオNIKKEI)に入社。99年夏より中央競馬の実況を開始、本年はオルフェーヴルの三冠すべての実況を担当した。「週刊競馬ブック」誌ではリレーコラム「こちらラジオNIKKEI実況席」を執筆、ケータイサイト「ラジオNIKKEIモバイル」では重賞予想も行っている。
JRAレーシングビュアーを予習、復習に活用
市丸:今は、毎年いくつものG1を実況されていますね。
中野:本当に恵まれていて……、この仕事に就いたおかげで、海外もいろいろなところに行けましたし。ドバイなんて競馬がなければ行く機会、ないですからね。そのドバイも5回、アスコット、ロンシャン、香港、シンガポール、そしてアメリカ。オーストラリアはないですけれど、主要なところはほぼ行かせてもらいました。
市丸:ただ、オーストラリアも、メルボルンCの実況をされていましたね。
中野:あれはグリーンチャンネルのスタジオでやったんです。まさかワン・ツーになるとは思わなかったので「うそぉ!? ええっ!?」と驚きましたね。
市丸:そんな数多くの実況の中で、ベストレースをひとつ挙げるとすれば……。
中野:ベストというのはないですけれど……。わたしたちの仕事は「いかに競馬に近づけるか」なのですが、どうしてもその競馬に到達することはできないんです。今のひと言はニュアンスが違ったなと、その瞬間、瞬間に思いながら、しゃべっているんですね。今のところ「これは」と言えるものはないので、いつかそういう仕事ができるようになりたいと思っています。
市丸:では、印象に残ったレースはどうでしょう?
中野:06年にハーツクライが行ったキングジョージです。ドバイ(シーマクラシック)であんな圧勝をした後ですから期待されましたけれど、行ってみると、なにか「ジャパンの馬に勝たせてなるものか」といった雰囲気が感じられたんです。レースもそんな厳しいものになりましたが、外からロングスパートをかけて、あのアスコットで先頭に立った瞬間には「びびびっ」と来ました。冷静に実況をしていれば明らかに早仕掛けであることはわかるのですが、それ以上にアスコットで先頭に立って、押し切れるかもしれないと思ったら、もう夢中で思わず立ち上がりました。日本でそんな「むき出し」の実況はできないですから、アナウンサーとして違う感覚を教えてもらいましたし、また、レースとしても「自分たちは競馬の先進国で、ここだけは譲れない」という、あちらの厳しさや意地を教えてもらって、いろいろ思い出に残ってます。
市丸:その後、ディープインパクトが出走した凱旋門賞も行かれましたね。
中野:日本ではお祭りのようになっていましたけれど、あのキングジョージを見ると、そんなに甘くないのではないか、という感覚もありました。また、帰国初戦のジャパンCは12万人も来ていたのに「自分たちの見てきたディープインパクトが、凱旋門賞でああいうことになって、いったいどうなるんだ」という、なにか静かな雰囲気でしたね。勝ったときには全体に安堵感が漂っていましたが、そういう特殊なレースを実況できたのは、入社10年目でぜいたくな経験でした。このキングジョージから一連の流れを経験できたのは、大きかったと思います。
市丸:国内のレースではいかがですか?
中野:03年の春にNHKマイルCで初めてG1を実況をして、あまりうまくできなかったのですが、どうしたらいいのか必死に考えて迎えたのが、デュランダルが勝ったスプリンターズSでした。あの僅差でしたけれど「強い競馬をしたビリーヴを、最後に差し切ったデュランダル」というニュアンスを伝えなければいけないと、しゃべりながら感じ、やる勇気を持たなければいけないと教えてもらったレースでした。ほかにも、それぞれのレースに思い入れはありますし、自分の実況はこれではいけない、と思わせてくれたレースも多々ありますね。
市丸:今後の目標などはございますか?
中野:すべては「聞きやすく、わかりやすく」です。これまで、いろいろなタイミングでなにをしたらいいのかを競馬から教えてもらい、今もその連続かなあ、と思っています。
市丸:さて、最後にJRA-VANについてもうかがいたいのですが……。
中野:JRAレーシングビュアーをよく利用させていただいています。
市丸:ご自身が実況したレースを……。
中野:見ます、見ます。復習しています。現場では「この言い方でわかってもらえたかな」と思いながら実況しているのですが、次のレースのこともありますから、その場では一切振り返らないんです。家に帰って、客観的な映像に対して自分がどう言っていたかをチェックして、「このときはこう言ったけれど、違うな」などと洗い出す作業をしますね。
市丸:実況の準備のときにも利用されますか?
中野:使いますね。たとえば今週の朝日杯の登録馬を見て、レースを覚えているものもあれば、抜けているものもあるので「このレースはこんな状況で、こんなふうに来ていたよな」というチェックをするには重宝させていただいています。これで月500円はすごいですよねえ(税込み525円)。
市丸:ほかの方の実況を参考にされることはありますか?
中野:それは自動的に(笑)。ただ、レーシングビュアーとは離れますが、映画や音楽などからヒントを得ることも多いです。映画ですと、ピストルから放たれた弾丸を避けるところや、ガラスに当たって飛び散る様をスローで写す場面がありますが、あえて一番速い瞬間を一番ゆっくりしゃべる、という発想につながったりもします。
市丸:データなどはいかがですか?
中野:コラムを書くときに、なんとなくこういう数値の傾向が出るだろうな、と思っていても、そこに実際の数字の裏付けがあると説得力を増しますよね。競馬場でも、スタッフの方がパソコンを持ってきて調べているデータを見ることはあります。それがまた、過去に何年もさかのぼって瞬時に出てきますから、すごいですね。
市丸:PAT投票には活用されていますか?
中野:PATには加入しているのですが、競馬場ですべてのレースを買えるのもあって、パスワードなどを忘れてしまったのです。WIN5がはじまったので久しぶりに使おうかと思ったのですが、パスワードなどを調べるのに以前住んでいた住所が必要で、それも忘れてしまったんですね(笑)。
市丸:そうでしたか(笑)。最後に、なにかご要望などはございますでしょうか?
中野:さまざまなデータが提供されていますけれど、情報というのは処理できてはじめて有効なものになりますよね。しかし、今は情報が多すぎて処理しきれない人も多いと思うんです。そこを、たとえば「市丸セット」とか、世の電脳予想家が愛用する組み合わせや使い方を伝えられたら良いと思います。このインタビューも、そんな中のひとつだと思いますが、「本当にこれは便利だな」「お金を払って良かったな」という方向に誘導するきっかけがあるといいですね。
市丸:貴重なご意見、ありがとうございました。また素晴らしい実況を期待しております。
※記事内の価格及びデータは掲載当時のものです。
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