私の競馬はちょっと新しい
第35回 レーシングライター 辻三蔵さん
- 「JRA-VANのある今の競馬が楽しくて仕方ないです」
- 1974年生まれ、広島県出身。98年にホースニュース社に入社し、専門紙「ホースニュース・馬」の美浦トレセン担当トラックマンに。08年より、フリーのレーシングライター。グリーンチャンネル「日曜レース展望 KEIBAコンシェルジュ」に出演するなど、各メディアにて活躍中。ブログ「辻三蔵の辻説法」。
調教からわかる厩舎の傾向
市丸:血統といえば、種牡馬の成績などはいかがですか?
辻:種牡馬も先日、ひとつ良い例がありまして……。高柳厩舎でラリエットという馬が新馬戦を10番人気で勝ったのですが(10月10日)、高柳調教師から、日曜の1400mと1600mでメンバーを比べて欲しいと言われたのです。それでメンバーなどを調べて1400mを勧めたのですが、このラリエットが木曜の調教で遅れはしたものの、動きは良かったんですよ。騎乗した中谷騎手に聞いても「遅れたけれど手応えはあった」と。また、追いかける形よりは先行した方が良い、という話にもなったとき「メイショウボーラーって逃げたら強いんだぞ」と言ったんです。新種牡馬なので、産駒も父と同じように先行して強いのか知らない方もいると思うのですが、実際に逃げると強いんですね。そうしたら、中谷騎手も「勝ちに行きますよ」と色気を持っていたら、見事な快勝劇!単勝4,030円と思えないぐらい、強い勝ち方でした。取材とデータと血統が合わさった、会心の当たりでしたね。
市丸:辻さんは長く調教を見てこられ、先日は「パーフェクト調教辞典」(自由国民社刊)も出されていますが、調教と成績の関連でおもしろいデータなどありますか?
辻:最近は実戦を意識して折り合い面に重点を置き、瞬発力を引き出す調教を課している厩舎が増えています。美浦なら堀、栗東では角居、池江、松田博厩舎が当てはまります。調教の成果はレースでの上がり3ハロンの数字にも表れています。今年の芝コース競走で上がり3ハロン33秒9(1000m除く)以内の数字をマークした厩舎を調べると、堀厩舎の32回がトップ。続いて、松田博厩舎の28回、角居厩舎の25回が続きます(2011年11月27日現在)。
市丸:今年のGT戦線で活躍している厩舎ばかりですね。
辻:これらの厩舎の調教を見ると、たとえば松田博厩舎はコースならCWコースを2周乗りますけれどラスト1ハロン重視ですし、角居厩舎もラスト1ハロンからゴール板を過ぎても追って瞬発力を伸ばす調教ですね。こうして、瞬発力をつける調教をしていると、レースでも速い上がりを使える馬が多く、それが結果にも結びついているんですね。逆に、負荷をかける調教を積んでいると、トライアルなどよりはレース展開が厳しい大レースや、中山のようなコースで成績が良くなりますし。少し難しい話ですが、データで見るとわかりやすいですし、そういったあたりを「調教辞典」で調べてくださると、馬券の検討にも役立つと思います。
市丸:坂路調教の時計は、ターゲットやJRA-VAN NEXTなどでもわかりますね。
辻:ターゲットを利用している方なら、坂路調教の時間をチェックしてみると、おもしろいかもしれません。
市丸:と言いますと?
辻:開門直後に追い切る厩舎に、実は成績上位の厩舎が多いんです。早い時間に追い切るということは、それ以前から厩舎でしっかりとウォーミングアップをして、基礎体力が作られているということなんでしょう。あと、橋口厩舎のように開門してから時間が経って調教する厩舎もあります。荒れた馬場状態で追い切るのでかなりの負荷がかかっています。全体時計は遅くても1Fを12秒台でまとめていれば、注目して欲しいですね。
市丸:一般的にはその日の速い時計1本分しか報じられませんが、ターゲットでは遅い時計もすべてわかりますね。
辻:美浦は時計が出やすいのであまり参考にならないのですが、それでも1本よりは2本乗って速い時計を出している馬は信頼できると思います。たとえば、田中清厩舎のアンシェルブルーは、2本目に48秒3という時計を、しかも(開門からしばらく経った)7時23分に出しているのは評価できます(11月2日。翌週のパラダイスS2着)。坂路は軽く1本乗るだけでも、かなり体力を使うといいますから。
市丸:ハロー掛けの前後でも時計の出方は違ってくるようですね。
辻:ターゲットで時系列で見られるのは非常に便利で、15分くらい1頭も時計を出していない時間があれば、そこでハロー掛けをしていることがわかるんです。それを知らずに、ハロー掛け前に追い切った馬を「なんだ、時計出てないじゃん」と思ってしまうのは損ですよね。
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