データde出〜た
第1107回 芝中〜長距離の距離延長・短縮を考える
2017/4/24(月)
今週は春の天皇賞が行われるが、人気を二分しそうなサトノダイヤモンドは芝3000mの阪神大賞典から、そしてキタサンブラックは芝2000mの大阪杯と、まったく異なる距離のステップレースから参戦してくる。その天皇賞の分析は木曜掲載分で行うが、月曜掲載分の今回は芝の中〜長距離戦全体について、距離短縮馬・延長馬の成績を調べてみたい。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。
■表1 天皇賞(春)前走レース別成績(好走馬輩出レース)
前走レース名 | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回収 | 複回収 | 平均人気 |
日経賞 | 3-4-2-43/52 | 5.8% | 13.5% | 17.3% | 123% | 105% | 9.1 |
大阪杯 | 3-3-2-10/18 | 16.7% | 33.3% | 44.4% | 143% | 130% | 6.4 |
阪神大賞典 | 3-1-4-47/55 | 5.5% | 7.3% | 14.5% | 309% | 130% | 8.9 |
京都記念 | 1-1-0-3/5 | 20.0% | 40.0% | 40.0% | 118% | 176% | 6.4 |
ダイヤモンドS | 0-1-0-8/9 | 0.0% | 11.1% | 11.1% | 0% | 70% | 8.1 |
大阪―ハンブルクC | 0-0-1-17/18 | 0.0% | 0.0% | 5.6% | 0% | 158% | 12.0 |
ドバイワールドC | 0-0-1-1/2 | 0.0% | 0.0% | 50.0% | 0% | 770% | 7.5 |
まずは、天皇賞(春)過去10年の前走レース別成績から見てみたい。今年は背景緑の4レースからの出走馬しかいないが、その中で好走確率が高いのは、天皇賞(春)とはもっとも距離が離れている大阪杯組だ。また、今年は該当馬がいないものの、芝2200mの京都記念から駒を進めた馬も、ジャガーメイル1着、トーセンラー2着と、5戦2連対という結果を残している。日経賞や阪神大賞典は出走馬が多く、平均人気が低い影響もあるだろうが、距離延長が割引材料にはならない、というくらいは言えそうな傾向だ。
■表2 芝3000m以上、前走距離別成績(1)
前走距離(芝→芝) | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回収 | 複回収 | 1〜3番人気 | 同複勝率 |
今回延長 | 54-53-53-611 | 7.0% | 13.9% | 20.8% | 76% | 74% | 36-22-23-83 | 49.4% |
500m以上延長 | 48-49-47-521 | 7.2% | 14.6% | 21.7% | 60% | 71% | 32-21-21-70 | 51.4% |
同距離 | 0-2-0-5 | 0.0% | 28.6% | 28.6% | 0% | 82% | 0-1-0-1 | 50.0% |
今回短縮 | 8-7-7-77 | 8.1% | 15.2% | 22.2% | 68% | 51% | 6-5-3-9 | 60.9% |
ここからは、天皇賞以外も含めたレースについて見ていきたい。表2は、07年以降(本年4月16日まで)の芝3000m以上のレースについて、前走距離別の成績を見たものである(前走も芝限定)。3000m以上の長距離戦は数が限られるため「同距離」の例は非常に少ないが、距離延長、短縮の好走確率に大きな差はない。1〜3番人気に限れば「短縮」の成績が良いものの、3000m級のレースで「短縮」という出走例自体がさほど多くはない。
■表3 芝3000m以上、前走距離別成績(2)
前走距離(芝→芝) | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回収 | 複回収 |
1600m | 0-0-0-3 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0% | 0% |
1800m | 1-0-1-24 | 3.8% | 3.8% | 7.7% | 73% | 31% |
2000m | 5-10-10-95 | 4.2% | 12.5% | 20.8% | 32% | 62% |
2200m | 8-5-6-99 | 6.8% | 11.0% | 16.1% | 33% | 51% |
2400m | 17-19-20-168 | 7.6% | 16.1% | 25.0% | 48% | 87% |
2500m | 16-14-10-119 | 10.1% | 18.9% | 25.2% | 122% | 85% |
2600m | 0-0-1-15 | 0.0% | 0.0% | 6.3% | 0% | 32% |
3000m | 7-6-5-91 | 6.4% | 11.9% | 16.5% | 172% | 92% |
3200m | 0-1-0-2 | 0.0% | 33.3% | 33.3% | 0% | 83% |
3400m | 2-3-3-31 | 5.1% | 12.8% | 20.5% | 52% | 53% |
3600m | 6-4-4-45 | 10.2% | 16.9% | 23.7% | 80% | 51% |
表2のデータをもう少し細かく、前走の距離ごとに区切ったものが表3である。さすがに1800m以下からは参戦する馬も少なく、優勝したのは菊花賞のスリーロールス、そして3着はステイヤーズSのデスペラードのみとなっている。春の天皇賞では、集計期間外にはなるが、クシロキングやサクラローレルが1800mの中山記念から連勝した例もあるが、いずれにしても例外的な存在だ。 もっとも好走馬が多く、好走確率も高いのは芝2400〜2500m。それでも3000mとなれば500〜600mの延長と決して小さな差ではないが、このあたりならまったく問題はない。また、天皇賞(春)で好成績を残す大阪杯の芝2000mからでも、極端に成績を落とすほどではないようだ。もちろん、個々の馬の適性や実力などにも左右されるが、単純に「前走との距離差が大きいから」といって、大きく評価を下げる必要性は薄いのが芝3000m以上の長距離戦だ。
■表4 芝2300〜2600m、前走距離別成績
前走距離(芝→芝) | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回収 | 複回収 | 1〜3番人気 | 同複勝率 |
今回延長 | 748-736-719-6908 | 8.2% | 16.3% | 24.2% | 76% | 77% | 459-371-314-1055 | 52.0% |
400m以内延長 | 534- 492- 497-4215 | 9.3% | 17.9% | 26.5% | 80% | 79% | 341-255-229-754 | 52.2% |
500m以上延長 | 214-244-222-2693 | 6.3% | 13.6% | 20.2% | 69% | 73% | 118-116-85-301 | 51.5% |
同距離 | 248-268-270-2188 | 8.3% | 17.4% | 26.4% | 62% | 76% | 161-157-118-464 | 48.4% |
今回短縮 | 122-110-112-1165 | 8.1% | 15.4% | 22.8% | 100% | 83% | 71-54-51-165 | 51.6% |
400m以内短縮 | 90-90-89-938 | 7.5% | 14.9% | 22.3% | 90% | 81% | 48-44-40-131 | 50.2% |
500m以上短縮 | 32-20-23-227 | 10.6% | 17.2% | 24.8% | 139% | 93% | 23-10-11-34 | 56.4% |
続いて表4は、芝2300〜2600m戦における前走距離別成績である。こちらもおおむね好走確率に差は少ないものの、中では「500m以上延長」馬の成績が他をやや下回っている。3000m級のレースに比べると、走破距離に占める「500m」の割合が大きくなる分、その影響が結果に出ている可能性がありそうだ。 一方、同じ「500m以上」の変化でも、「500m以上短縮」なら勝率は10%台に乗せ、単複の回収率も上々だ。3000m級のレースが少ない中で、ほとんどの競走馬にとってこの距離への「500m以上短縮」は、走り慣れた距離に戻ることになる。この芝2300〜2600mへの「500m以上短縮」というと、大レースでは菊花賞→有馬記念が該当するが、昨年のサトノダイヤモンドなど、有馬記念では菊花賞組も多くの好走馬を輩出している。
■表5 芝2000〜2200m、前走距離別成績
前走距離(芝→芝) | 着別度数 | 勝率 | 連対率 | 複勝率 | 単回収 | 複回収 | 1〜3番人気 | 同複勝率 |
今回延長 | 749-720-721-8070 | 7.3% | 14.3% | 21.3% | 71% | 74% | 484-352-269-1065 | 50.9% |
〜200m延長 | 576--533-526-5348 | 8.2% | 15.9% | 23.4% | 71% | 76% | 366-277-207-835 | 51.0% |
〜400m延長 | 154-158-167-2011 | 6.2% | 12.5% | 19.2% | 73% | 72% | 91-66-57-203 | 51.3% |
500m〜延長 | 19-29-28-711 | 2.4% | 6.1% | 9.7% | 67% | 56% | 7-9-5-27 | 43.8% |
同距離 | 738-754-725-6500 | 8.5% | 17.1% | 25.4% | 78% | 76% | 495-397-324-1100 | 52.5% |
今回短縮 | 318-342-336-3039 | 7.9% | 16.4% | 24.7% | 72% | 81% | 215-175-143-495 | 51.8% |
400m以内短縮 | 272-300-297-2558 | 7.9% | 16.7% | 25.4% | 69% | 81% | 185-163-127-436 | 52.1% |
500m以上短縮 | 46-41-39-481 | 7.6% | 14.3% | 20.8% | 88% | 80% | 30-12-16-59 | 49.6% |
最後に、芝2000〜2200mについても見ておきたい。こちらは該当レース数が多いため、集計期間を短縮して12年以降としている。この集計では明らかに「500m以上延長」は大きなマイナス材料で、連対率どころか複勝率すらひと桁台にとどまっている。また、300〜400mの延長でも複勝率20%を割っており、距離延長馬なら200m以内が望ましい。一方、距離短縮でも「500m以上短縮」になると好走確率はひと息。また、表の右に掲載した1〜3番人気にかぎった成績でも、500m以上の延長、短縮馬の複勝率は低めだ。やはり、走破距離2000mや2200mという中での「500m以上」の差は大きい、ということだろう。
以上、芝の中〜長距離戦における、距離延長・短縮による成績の違いを探ってみた。2000m超、あるいは2300mあたりからひとくくりに「長距離戦」と言われることも多いものの、そんな中でもそれぞれ違いはありそうで、それが「中距離」になればその差はさらに大きくなる。今週の天皇賞(春)のような大レースなら前走レース別成績を調べやすいが、それ以外のレースでも、こういった傾向も参考にしつつ組み立てたい。
ライタープロフィール
浅田知広(あさだ ともひろ)
1970年12月、埼玉県生まれ。立命館大学文学部中退後、夕刊紙レース部のアルバイト、競馬データベース会社を経て、現在はフリー。パソコンが広く普及する以前から、パソコン通信でデータ手入力方式の競馬予想ソフトを公開するなど、競馬のみならずPCやネットワークにも精通。その知識を活かし、Webや雑誌で競馬ライターとして活躍するかたわら、ネットワークの専門誌にも連載を持つ。