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2014凱旋門賞特集

奥野庸介の展望&回顧

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アウェーの競馬に適応できなかった日本勢

日本を代表する3頭をしても凱旋門賞には手が届かなかった。勝ったトレヴは3番枠という好枠を生かし、前半は先行勢の作る緩みのない流れに乗って内ラチ沿いでじっと我慢。昨年はフォルスストレートから捲って、内に向かって一気にスパートをかけての大勝だったが、今年は仕掛けのタイミングを心もち遅らせて末脚を温存。仮柵が外されたグリーンベルトの上を通って、猛追するフリントシャーを2馬身突き放し、アレッジド以来、36年ぶりの連覇を達成。牝馬としては凱旋門賞がまだ黎明期だった時代の名牝コリーダ(1936年の4歳時と37年の5歳時に連覇)以来、実に77年ぶり、史上2頭目という大偉業を成し遂げた。

昨年の5馬身差圧勝で世界の最高峰に登ったトレヴだったが、今年は結果を出せずに3連敗。春に背中を痛めて夏場を全休し、前哨戦のヴェルメイユ賞でも最後の伸びを欠いて4着に敗退と春先の前売り1番人気馬は徐々に後退、レース当日は単勝15.4倍の7番人気にまで評価を下げていた。勝因は短い期間で能力を発揮できる状態にまで戻した陣営の努力と、この馬が持つポテンシャルにあろうが、コースを熟知し、手の合うジャルネ騎手の好騎乗も優勝を引き寄せる原動力となった。

日本馬は直線追い上げたハープスターが勝ち馬から約4馬身半差の6着、果敢に内を突いたジャスタウェイはドバイで世界を驚愕させた豪脚が見られず8着まで。出遅れて最後方から直線横一線に開いた大外を通ったゴールドシップは良いところなく14着に終わった。

ディープインパクトでさえ、押し出されて先行したように、欧州競馬は途中まではスローで、各馬は前に壁を置きながら勝負どころで一斉にペースを上げる。しかし、横一線ムードでチャンスのありそうな馬が多かった今年は前半もタイトに流れ、これが勝負の明暗を分けた。末脚に自信を持っていた3頭は後方に置き去りにされ、欧州馬が先で繰り広げる「競馬」に加わることができなかった。上位を争った馬たちがアクセルを踏み込んだ地点をジェットコースターが真っ逆さまに落下する頂点とするなら、日本勢はこれに大きく遅れを取った。今回は能力の差で負けたのではなく、アウェーの競馬にアジャストできなかった結果と理解すべきだろう。

2着に善戦したフリントシャーも内枠(4番枠)と騎手の腕がものを言った。M.ギュイヨン騎手はヴェルメイユ賞でもバルチックバロネスを最内に導いて勝利をもぎ取ったように、いつも迷うことなく内を狙ってくる。発表は良馬場だったが、当日の芝は微妙で、1番人気で3着したタグルーダーには重く、大外枠から出て、4着に健闘したキングストンヒルには逆に軽すぎたようだ。

予想不可能な大混戦 日本馬の上位独占もある

日本勢は世界ランキング1位のジャスタウェイを筆頭にどれもが勝利を掴む能力を備えている。各馬に一長一短あり、当日の馬場状態や枠順、ペースなど絡み合う不確定要素が着順を左右するだろう。これを迎え撃つ欧州勢の層も厚い。争覇圏内に10頭以上がひしめく混戦模様は直前まで変わらないだろう。

古牡馬より5kgも軽い54.5kgで出走できる3歳牝馬のアドバンテージは大きい。これに該当するのが日本のハープスターと英国のタグルーダ、それに地元フランスのアヴニールセルタンだ。3頭の力量比較は難しい。春までなら胸を張ってハープスターと言えたが、夏を越して欧州勢も追いついてきた。地元の利のあるアヴニールセルタンがわずかに有利とも考えていたが、主戦のブノワ騎手が3歳牡馬のエクトーを選んだことで横一線に戻った。ハープスターの理想は勝ち時計が2分28秒以内で決着する硬めの馬場での末脚勝負か。

牝馬同様に3歳牡馬も高いレベルにある。前売りで1番人気になった独ダービー馬シーザムーンの電撃引退、英・愛ダービー馬オーストラリアと仏ダービー馬ザグレイギャッツビーの回避は残念だが、トライアルのニエル賞を差し切ったエクトーもこれらに遜色ない潜在能力を秘めている。デビュー戦以外、負けなしの6連勝中と勢いがあり、腕っ節の強いブノワ騎手向きの馬。折り合いは難しそうだが、後方一気がはまれば日本勢の強力なライバルになる。

上半期の王者を決めるキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでタグルーダに屈したように今年の古馬陣は不振を続けていた。しかし、前哨戦で好走した馬たちの上昇度に目を向ける必要がある。バーデン大賞でシーザムーンを破ったドイツのアイヴァンホウ、英ダービー2着馬で英セントレジャーに優勝したキングストンヒル、フォワ賞で昨年の英ダービー以来の勝ち星を挙げたルーラーオブザワールド、それに今年は3戦未勝利と不完全燃焼のまま本番を迎えるトレヴも、大一番でディフェンディングチャンピオンの意地を見せるはずだ。アイヴァンホウは昨年の独ダービー(8着)で1番人気に推された素質馬。重馬場が大得意のキングストンヒルが出走に踏み切れば、それはタフな競馬を意味する。リズム感を取り戻したルーラーオブザワールドは名手デットーリがラムタラの時のようにフォルスストレートから仕掛ける。

単純な比較はできないが、ドバイシーマクラシックで古豪シリュスデゼーグルをねじ伏せたジェンティルドンナを物差しにすれば、日本馬の上位独占があって、なんら不思議はない。これまで2000mまでに圧倒的強さを発揮してきたジャスタウェイは一にも二にも距離が鍵を握る。この一点がクリアされるなら、ドバイ同様の圧勝もあり得るのではないか。凱旋門賞に実績あるステイゴールド産駒ながらマークの薄いゴールドシップはいつも通り、自分との闘い。押し合いへし合いの競馬が芦毛の闘志に火をつければ、一気に最前列に躍り出る。

昨年のG1愛オークス馬で、同年11月のセリで600万ユーロ(約8億4000万円)でクールモアにトレードされたチキータが緊急参戦を発表した。混迷の度合いはますます深くなっている。

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