ピーター・フランクルの勝ち組の方程式V
※このページは、弊社が配布する広報冊子に掲載した記事を、ピーター・フランクル氏のご厚意により一部説明を加筆してご紹介してい ます。
ゲーム理論でオッズを読み解く

数学オリンピックという、毎年夏に開催されているコンテストで、恒例になっているゲームがあります。

数千人の受験者が、それぞれ好きな自然数(正の整数)を1つだけ書き、それを集計して、1人だけしか書かなかった「孤独な自然数」の中で、最も小さい数字を書いた人が賞品をもらえるというゲームです。

このゲームの最良の戦略を考えるのはなかなかの難題です。許されたいちばん小さな数字は1ですが、「1」と書く人は何人もいるでしょうし、ほかの1桁の数字もおそらく「孤独」にはならないでしょう。実際、これまでの優勝者が書いた数字は、すべて2桁の数字です。

競馬の予想も似ていて、勝つ確率が高いと誰もが思う馬には人気が集まり、そこに賭けてもうま味はありません。ほかの人が見過ごしている馬で、勝つ確率のいちばん高い馬はどれか。競馬ファンの多くが常に考えていることでしょう。

競馬は数学ゲーム以上に複雑ですが、貴方の脳をリフレッシュするために、簡単な例で先ほどの「孤独な自然数」ゲームの戦略を考えてみましょう。

                                      ☆☆☆

まずはじめに、AさんとBさんの2人がこのゲームを行うとします。そして勝った人は負けた人から毎回100円を貰うことにします。

ゲーム理論で最善の戦略は、確率的で考えます。たとえば、Aさんは1、2、3という数字をそれぞれp、q、rの確率で書くとしてみましょう(p+q+r=1、つまり4以上の数字は絶対に書かない)。そのときBさんはどうすればよいのかを考えてみます。

もしBさんが1を書くと、負けることはありません。というのは、Aさんが1を書いても(確率p)引き分けとなり、そのほかならばBさんの勝ちになるからです。ところがBさんが3を書いてしまうとBさんに勝ち目はありません。2を書いたときは、Aさんが1を書いたときは負けて、3を書いたならば勝つのです。Bさんの見込める利益(数学的な用語で『期待値』)は、1を書くと(q+r)×100円、2を書くと(r−p)×100円で、やはり1を書いたほうがよいことがわかります(q+r > r−q)。

結局このゲームの場合、AさんBさん共にずっと1を書き続けることが最善の戦略になるのです。                   

                                      ☆☆☆ 

では次に、ゲームの参加者をAさん、Bさん、Cさんの3人に増やしてみましょう。

みんな1を書きたいはずですが、誰かとダブれば2を書いた人に勝ちをさらわれます。さらに3以上の数字を書くのは明らかに不利です。

そこでAさんとBさんはそれぞれ確率xとyで1を、確率(1−x)と(1−y)で2を書くことにします(表1、表2)。

それをもとに、Cさんが1を書いたときと、2を書いたときの見込める儲け(数学的には「期待値」という)を表5にまとめました。表5で、Cさんが1を書くときの儲けの式からCさんが2を書くときの儲けの式を引くと、200(1−(x+y))になります。つまりx+y<1のとき、Cさんはずっと1を書くほうが儲けが多くなり、x+y>1のときにはずっと2を書くほうが儲けが多いという結論が出ます。x+y=1のときは1を書いても2を書いても儲けは変わりがありません。

たとえばAさんとBさんがグルになって、Aさんはずっと1を、Bさんはずっと2を書くと、Cさんは何を書いても負けることになってしまいます。ズルがなく、3人共1と2を2分の1の確率で書くと、ゲームのいわゆる「ナッシュ均衡」となり、3人共4分の1の確率で勝って、4分の1の確率で勝負がつかないのです。

単純な問題でも、ベストの戦略決定には計算が必要になります。ましてや競馬だと、オッズや勝率などのデータを通して他人の行動を想像し、自分の賭け方を決めなければなりません。それぞれのレースについて、期待値が最大となるたった1種類の馬券はどれか。こんな難問を、毎回探求しておられる競馬ファンの皆さんに、数学者は素直に敬意を表します。

ピーター・フランクル
大道芸人という肩書きを持つハンガリー生まれの数学者。1971年国際数学オリンピック金メダリスト。11ヶ国語を話し、1988年より日本に在住。

表1 AとBが1あるいは2を書く確率
 
Aさん
Bさん
1を書く確率
x
y
2を書く確率
1−x
1−y

  表2 AとBが書く数字の組み合わせとその確率
Aさんが書く数字
Bさんが書く数字
その確率
1
33.7%
3.0
2
18.8%
5.4
3
14.0%
7.2
4
 9.2%
10.9
5
 6.7%
15.0

表3 Cさんが1を書いたときの期待できる儲け
Aの書いた数
Bの書いた数
Cの書く数
勝者
Cの儲け
1
1
1
引き分け
0
1
2
1
−100
2
1
1
−100
2
2
1
+200
期待できる儲けは、
−100X(1−y)−100(1−x)y+200(1−x)(1−y)=100(4xy−3x−3y+2)

表4 Cさんが2を書いたときに期待できる儲け
Aの書いた数
Bの書いた数
Cの書く数
勝者
Cの儲け
1
1
2
+200
2
2
2
−100
2
1
2
−100
2
2
2
引き分け
0
期待できる儲けは、
200xy−100x(1−y)−100(1−x)y=100(4xy−x−y)

表5 Cさんが期待できる儲け
 
Cさんが1を書くとき
Cさんが2を書くとき
Cさんの儲け
100(4xy−3x−3y+2)
100(4xy−x−y)
1を書いたときの儲けの差 
100(4xy−3x−3y+2)−100(4xy−x−y)=200(1−x−y)=200(1−(x+y))

競馬DE頭の体操

一郎、次郎の2人は馬を飼っています。2人はその馬を使って24キロ離れた市場に行くことにしました。

馬に乗ると時速30キロ、徒歩だと時速6キロの速さで進めます。そこで2人が共に市場に到着できる最短の時間を求めてください。

ただし2人が同時に馬に乗ることはできませんし、馬は賢くて、誰も乗せない時でも同じ速度で走れます。


ヒント
問題の最後につけた条件を、よく考えてみましょう。