セレクションセール2017

セレクションセールの総括

 セレクトセール2017開催後に行われた記者会見。日本競走馬協会会長代行を務める吉田照哉氏は、史上最高の売り上げを記録した2日間を振り返った後で、

「セレクトセールの活況は、これから行われる日高のセリにもいい影響をもたらしてくれるはず」

 とも話していた。言わばセレクトセールから託された「活況」のバトン。日程的にもそのバトンを受け継いだ形となった今年のセレクションセールだったが、ここでも史上最高の売り上げを更新と、生産界を更に活気付ける結果となった。

 祝日となった7月17日には多くの購買関係者が展示に詰めかけたHBAセレクションセールではあったが、セリ当日の18日は平日ということもあるのか、屋外で馬の最終チェックを行う人の数は幾分、落ち着いているようにも見えた。しかし、購買登録者数は過去最高となる538名を数えており、それを証明するかのように、セリ会場内の椅子は早い時間からびっしりと埋まるなど、活発な取引を予感させていた。

 その予感が正しかったことがセリ序盤から証明されていく。この日、1頭目の上場馬となるグッドファイトの2016(牡、父ブラックタイド)から、6頭連続での落札。そのうち、5頭が1000万円以上の落札額と、会場の至る所から活発な声がかかり続けた。

 この日のクライマックスはいきなり訪れた。上場番号11番のチリエージェの2016(牡、父ロードカナロア)は、2000万円の一声から時には100万単位で数字を上げていき、この日の最高額となる4400万円で(同)雅苑興業が落札。生産者である(株)白井牧場の白井岳代表は、

「これだけ高い評価をしていただけたことに感謝するだけです。母から受け継いだと言える前向きさと、兄弟の活躍にも証明されているようなスピード能力を活かして、購入していただいたオーナーに喜んでもらえるようなレースを見せてもらいたいです」

 と語っていた。

 今年のセレクションセールはチリエージェの2016の他にもロードカナロア産駒に高い評価が集まっており、トウカイポピーの2016(牡)を永井商事(株)が3800万円で落札。マイネアンティークの2016(牡)を(株)サラブレッドクラブライオンが3500万円で落札している。これは初年度産駒の好調な活躍、そしてセレクトセールの取引馬から誕生した初のミリオンホースといった、ロードカナロア産駒に対する評価の高さが、落札額の高さとしても証明されたと言える。

 3000万円以上の取引馬は17頭を数えたが、その中にはダイワメジャー、ハービンジャーのようなリーディングサイアー上位にランキングされる種牡馬の産駒だけでなく、この世代が初年度産駒となる、グランプリボスを父に持つセルリアンブルーの2016(牡)を3800万円で了コ寺健二氏が落札。またロードカナロアと同じく、この2歳世代が初年度産駒となるエイシンフラッシュ、オルフェーヴル産駒も名を連ねるなど、良質な上場馬には種牡馬実績を問うこと無く、激しい競り合いが行われていた。これは上場馬の血統を重視しながらも、目新しい種牡馬の産駒もピックアップした選考委員の選定が功を奏したと言えるだろう。

 多彩なラインナップは購買者の興味を損ねることなく、売却率は常に80%台をキープし続け、この日、226頭目の上場馬に、184頭目となる落札の声が鑑定人からかかったその時、売却率は81.41%を記録。前年の売却率レコードだった73.53%を大きく上回るセレクションセールレコードとなった。

 次々とハンマーが落とされていく高額落札馬の数にも証明されたように、平均落札額の1565万円、落札総額の28億8020万円もまた、セレクションセールレコードという、まさに「ストロングマーケット」と呼ぶに相応しい数字を残した。

 この結果を受けて記者会見に臨んだ木村貢市場長は、終始、笑顔を浮かべながら、

「売却率の80%越えというのは、過去に経験したことが無かっただけに、ただただ驚いています。これも近年におけるセリ市場の好況が追い風となっただけでなく、上場者の良質な馬をセリに送り出したいという努力もまた、購買者の皆さんに理解していただけたのではないのでしょうか」

 と語っていた。

 展示を含めた2日間、会場に足を運んでみて改めて思ったのは、セレクションセールは名実ともに、「セレクション」された上場馬を購買者が選べる競走馬市場である、とのブランドイメージを強く印象付けたと思う。

 それはセレクションセールに上場させるべく、血統、競走成績共に優れた繁殖牝馬の導入を図り、優れた種牡馬成績を残す種牡馬を配合。上場馬によってはコンサイナーと協力し合って育てた生産馬を選考委員が選定し、その後もレポジトリーを提出するなどして上場馬への信頼度を高めたことで、購買者の良質馬を求めたいという意欲をより高めた結果が、このレコードずくめのセールとなったのだろう。

 しかし、「ブランド」は一日にして出来上がるものではない。こうした努力を積み重ねた結果がブランドとなり、ブランドには重要な「信頼」や「安心感」にも繋がっていく。その意味でも主催者となるHBA関係者、そして数々の良質馬をセレクションセールに送り出してきた生産者やコンサイナーの皆さんの努力の積み重ねが、この結果となったことを改めて記しておきたい。

「活況」のバトンを受け取ったセレクションセールは、競走馬市場に更なる活気を与えるような流れを作って見せた。次にそのバトンを渡されるのは、8月21日から25日まで北海道市場で開催されるサマーセールと、10月2日から4日まで同じく北海道市場で開催されるオータムセール。しかし、これまでのバトンリレーの勢いや、そしてセレクションセールを終えてもまだ、購買者の競走馬購入への意欲に衰えが全く見られない状況を考えても、今年の競走馬市場が最高のフィナーレを迎えることは、ほぼ間違いなさそうだ。

※取引価格は全て税抜

(村本浩平)

ライタープロフィール

村本浩平(競馬ライター)

北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。

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