セレクトセール2017

セレクトセールのみどころ

 昨年1歳セレクトセールで、ごく近しい人が馬を買った。

 一口馬主としてのキャリアは7年と聞く。ひと世代100頭近くの1歳馬に申込み、投資金額は3千万円をこえるほどになっていたが、個人馬主として買うのは、去年のセレクトが初めてだった。

 個人馬主資格を得るため、事務手続きにあちこちと奔走することから始まり、さてさて、大事な一頭をどのようにして選ぶか。芝馬かダート馬か、牡か牝か、短距離馬か中距離馬か。

 億を超える馬を何頭も買える大馬主ではないから、ダービーに出てもらわねば困るような高額馬には普通に手が出せず、必然的に予算の天井も設定しなくてはいけない。結局予算は4千万前後に線を引こうか。

 可能性のある候補をピックアップし、管理してもらうことになるだろう調教師と牧場に幾度か下見に出かけ、レポジトリーなども確かめる。牧場によっては測尺を公表しているところもあり、各馬のリポートをまとめ、調教師から意見なども書き加えてもらう。

 ほほう。それなりの意思と決まり事を以て目標を定めると、案外と候補は絞れてくるものだ。ならば最終的にリストアップされた約10頭の中で一番欲しい馬は何か。よしと思ったら、その馬にまず競りでは全力をつくそう。外れた場合の、二番目と三番目はどれか、胸に手を当て後悔なきよう正しい序列を作り、いざセリに臨む。

 幸いかな。希望の一番馬が、消費税込みで4千万弱でハンマーが落ちた。

 それから一年、月に一度は牧場を訪ね、近況や育成状況をスタッフに訪ねて回る。1歳から2歳春までは、痒い痛い、疲れて食欲がないときもあった。しかし、5月半ば、トレセンに入厩。順調に時計を出し始め、セレクトウィークの前日週に計ったように新馬デビューが可能となった。

 勝ち負けは神のみぞ知る(笑)。ただ、近しい人の馬は、頑張っても血統的にはどうやらマイラーかな?――たぶんダービー馬ではないような気もするが、ダービー馬をと思えば、まずはディープインパクト産駒だろうか。

 明け3歳世代の春の牡馬クラシック二冠は、ディープ産駒はアルアインが皐月賞を優勝。アドミラブルがダービー3着。カデナが弥生賞を勝ち、ソコソコ重賞で好走もしていたが、これがエースだというディープの仔を特定できないまま終わってしまった。

 春最後の皐月賞・ダービーに照準を絞った馬が多かったためか。始動が遅れ気味だったぶん、ディープ産駒はひと夏越えた秋に、大きなうねりが生じ確変する可能性もあるが、ディープが手薄、ならばキングカメハメハ。ダービーはレイデオロが大胆なスローマクりに成功。小差2着のスワーヴリチャードハーツクライの息子。2014年のセレクトセール当歳で、1億5500万円で落札(税抜)。パツンパツンに身体の張った、あの幼駒時代の栗毛の立ち姿を、時に思い出したりもした。

 ことしのセリの高額馬も、もちろんまずはディープインパクト産駒ありき。初日の13番には早くも、「幻のダービー馬」という人もいるシルバーステートの全弟が登場。リッスンは、タッチングスピーチの全弟。ラヴズオンリーミーはリアルスティールの全妹。シャンパンドーロの兄は、昨年2億円余の高額で落札され、弟も馬っぷりが評判になっている。

 1歳セールは、基本的には「〇〇の弟もしくは妹」という、なるべくわかりやすいラインナップが設定されているように思うが、サファリミスへアキティーなど、従来のディープ産駒とは体の造りが少し父と異なる、ニュータイプの仔もチラホラ見かける。

 当歳は、まずはドナブリーニ、これは美しい。イルーシヴウェーヴコンテスティッドバラダセールヒアトゥウィンザズースカイディーバなど、やっぱり当歳もラインナップは鮮烈だ。

 キングカメハメハは、体調不良でここ数年種付け頭数が減少したが、0〜1歳世代は100頭近くまで盛り返し頑張った。アーニングインデックスは、ディープとほぼ互角。ディープの一番のライバルとなるキンカメ産駒も、1歳はラストグルーヴガールオンファイアミスセレンディピティ。当歳はギーニョジンジャーミストベルロワイヤルなどが上場されている。

 近しい人が言うには、いや、ディープもキンカメも高くて手が出せないよ。もしかしたらハーツクライはいけるかも?――少し時間はかかったが、ハーツクライ産駒の特性や仕上げ方をほぼみんながマスター。前記「二強」に割って入るのはハーツだろうと、実は多くの人がアタリをつけている。蓋を開けてみると、ここが一番の激しい争奪戦になり、馬によってはリザーブ価格の3倍近くまで急カーブを描く馬が数頭いるかもしれない。

 本年6月の新馬ですでに何頭かデビューを果たしているが、ロードカナロアオルフェーヴルエイシンフラッシュノヴェリストは、全貌が明らかになっていないぶん、まだ参加の余地が残っている?

 ロードカナロアの仔は、6月4日の東京・芝マイルを1分34秒8で走った、ステルヴィオの配合や身体のラインが格好のサンプルだろうか。エイシンフラッシュ産駒は、東京・芝1800mを快勝したスワーヴエドワード。新馬デビューの始動が遅れ気味のオルフェーヴルは、評価に迷っている今こそが、お買い得、勝負どころかもしれないと、近しい人も虎視眈々(笑)。目標をマイラーに定めれば、ヘニーヒューズダイワメジャーも堅実だ。

 当歳の一番の話題は、ブラックタイド×シュガーハートですか。そう、あのキタサンブラックの全弟が登場、これは見ものです。

 当歳は新種牡馬でも冒険。写真とビデオで見ただけですが、いやいや。キズナの仔たちは、みんな骨量豊、踏ん張りの姿勢がいい。エピファネイア産駒の首差しと胴回りは、父親そっくり。ゴールドシップ産駒の張った体、目力の強い馬が多いなぁ…。

 

ライタープロフィール

丹下日出夫(競馬評論家)

「ホースニュース馬」を経て現在は毎日新聞本紙予想。POG大魔王の通称も定着している。

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