セレクションセール2016
セレクションセールの歴史
「モーリス!」「モーリス!」「モーリス!」
グリーンチャンネルをご覧の方は一度はインパクト抜群と言える、HBAの主催するセリ市場のCMをご覧になったことがあるはずだ。 そのモーリスは日高町・戸川牧場の生産馬。 2012年のHBAサマーセールに上場されると、購買先となった新冠・大作ステーブルで騎乗育成を施された後、2013年のHBA2歳トレーニングセールに上場。 トレーニングで鍛えこまれた馬体と、スピード感溢れる動きを公開調教で披露する。
生産、育成と日高の牧場で管理を続けられ、2度に渡ってHBAの主催する市場で取引されたモーリス。 その後、JRA賞の年度代表馬に選出されただけでなく、今や世界にもその名を轟かす名マイラーとなったことは、CMでその名を連呼せずとも、誰もが周知している事実と言えよう。 「オール日高」から産まれた名馬の活躍に刺激を受けたかのように、昨年から今年にかけて日高地区の生産馬たちの活躍が目立ってきている。
モーリスが安田記念に続き、マイルCSも勝利したその後には、ゴールドアクターが有馬記念を優勝。 今年に入ってからもセレクションセールの取引馬であるビッグアーサーが高松宮記念を勝利し、ディーマジェスティは日高の地に牡馬クラシックタイトルをもたらした。 その他にも昨年の菊花賞に続き、天皇賞(春)も優勝したキタサンブラック、ヴィクトリアマイルを連覇したストレイトガール、中央、地方問わずにダート重賞戦線の主役を務めるコパノリッキーなど、日高生産馬のGI勝利は多岐に渡っている。
近年の日高生産馬の活躍は、熟考された配合、コンサイナーの仕事にも象徴される、中期育成での細やかな管理と、セリ市場の好循環がもたらした結果とも言えよう。 その前向きな気持ちを作り出した中に、「セレクションセールで評価してもらえるような生産馬を作る」という、生産者の意識があるのは間違いない。
セレクションセールは、HBAが主催するセリ市場でも最上級の位置付けがされており、上場に際してはHBA職員の実馬検査、そして血統基準も審査に加えられ、選考委員会をパスした馬しか上場を許されない。 今年は約540頭の申し込みがあり、そこから250頭が選抜(上場頭数は242頭)。 まさに「セレクションセール」と呼ぶに相応しい242頭が、名簿に名を連ねた。
セレクションセール上場馬の質の高さは、取引馬たちの活躍にも証明されている。 その中でも代表馬と言えるのが、日本競馬最多となるGI10勝を挙げたホッコータルマエ。 また、ビッグアーサーは初重賞制覇を高松宮記念でのGI勝ちという快挙で飾った。 NHKマイルカップの優勝馬ロジック、朝日杯FSを制したセイウンワンダーなどもセレクションセールの出身馬である。
左:ホッコータルマエ(2014チャンピオンズC)
右:ビッグアーサー(2016高松宮記念)
HBAの主催する市場、特に今年のセレクションセールは、バイヤーにとって「第二のモーリス」を探すセールとも言えよう。 だが、先程も記したように、多岐に渡る活躍馬が取引されていることを考えれば、「第二のホッコータルマエ」や「第二のビッグアーサー」を探すセールとの見方もできる。 それもバラエティに富んだ種牡馬の名前が並んでいる、HBAの主催市場ならではであり、バイヤーの様々なニーズに、魅力溢れるラインアップで応えてくれるはずだ。
しかも、ほぼ同時期に開催されるセレクトセールと比較した場合、平均落札額や中間落札額にも証明されているように、セレクションセールはリーズナブルな競走馬市場とも言える。 今年はキングカメハメハ産駒やオルフェーヴル産駒など、セレクトセールでも好評価を受けている種牡馬の産駒も上場されているが、昨年までのデータを見ても同一種牡馬の産駒1頭辺りの平均落札額はセレクションセールの方がお手頃感がある。 むしろ、セレクションセールとセレクトセールの双方に上場されている種牡馬の産駒を探しているのなら、セレクションセールに参加した方がお得な買い物ができそうだ。
勿論、「お得」以上に重要である、「安心」もセレクションセールには備えられている。 昨年からレポジトリーで用いられる四肢のレントゲン写真は、従来の28枚に加え、任意提出ながらも両後膝の8枚も提出されるようになった。 これまで以上に信頼性のおける市場となったことはバイヤーにも評価され、昨年は売却総額が20億5858万8000円、売却率は71.9%と共にセールレコードを記録。 特に売却率の70%越えは、セレクションセールに購買意欲をそそられる馬が上場され、そして信頼性のおける市場となった証拠とも言えよう。
今年も多数に渡り購買される馬の中には、未来のGIホースもいるはず。 「モーリス!」の連呼に変わるCMもまた、そう遠くない時期に放送されそうである。
過去のGIウイナー
- ・ホッコータルマエ
(チャンピオンズC、帝王賞2回、川崎記念3回、東京大賞典2回、JBCクラシック、かしわ記念)
- ・サニングデール(高松宮記念)
- ・セイウンワンダー(朝日杯FS)
- ・フィールドルージュ(川崎記念)
- ・ロジック(NHKマイルC)
- ・メルシーエイタイム(中山大障害)
- ・ビッグアーサー(高松宮記念)
近年の重賞馬
- ・シルクフォーチュン(プロキオンS、根岸S、カペラS)
- ・ショウナンマイティ(大阪杯)
- ・テイエムイナズマ(デイリー杯2歳S)
- ・トーホウレーサー(ニュージーランドT)
- ・マイネルメダリスト(目黒記念)
- ・アントニオバローズ(シンザン記念)
- ・アンペア(エーデルワイス賞)
- ・アースソニック(京阪杯)
- ・エーシンビートロン(サマーチャンピオン)
- ・エーシンホワイティ(ファルコンS、新潟ジャンプS)
- ・コスモヘレノス(ステイヤーズS)
- ・サウンドリアーナ(ファンタジーS)
- ・ストークアンドレイ(函館2歳S)
- ・スマートギア(中日新聞杯)
- ・マジカルポケット(函館2歳S)
- ・マンハッタンスカイ(福島記念)
- ・ラッシュストリート(佐賀記念)
- ・ダンツプリウス(ニュージランドT)
- ・マイネルバイカ(白山大賞典)
- ・マイネルクロップ(マーチS、佐賀記念)
- ・ピカレスクコート(ダービー卿CT)
ライタープロフィール
村本浩平(競馬ライター)
北海道在住の“馬産地ライター”として、豊富な取材をもとに各種競馬雑誌で活躍中。