ドバイワールドカップ特集

 

制圧、肉迫、日本馬の戦い

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ステイゴールドは海外で無類の勝負強さを誇った。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

激闘を演じた日本馬のレース

日本の“善戦マン”が世界制覇!
ドバイの競馬史に初めて勝者の名を刻んだ日本馬

日本馬が海を渡り、海外で結果を残すことが当然の様に思われている現在。ドバイでも4頭の日本馬(2007年まで)が勝ち名乗りを受けている。その中でも忘れてはならないのが日本代表馬としてドバイで初めて勝利の2文字を掴んだステイゴールドだ。

ステイゴールドといえば、日本で走っている際は様々なGIレースに挑戦して、あと一歩で勝利というところまでいきながらも、最終的には2着や3着に甘んじてしまう“善戦マン”の印象が強かった。

このステイゴールドに対するイメージは日本国内の競馬関係者やファンのみならず、驚くことに海外のホースマンの間でも定着していた。2001年に筆者がドバイを訪れた際、海外の記者が日本馬について質問してきた。その時に「ステイゴールドは今回も2着かい?」と冗談交じりに話してきたのだ。それも一度のみならず、複数の海外ホースマンたちから同じ様なことを言われて驚愕したことを覚えている。年々、日本に入ってくる海外競馬の情報量が増えているのだから、逆に日本の情報が海外にも細かく流れているということだ。

そんな世界的な“善戦マン”のステイゴールドだが「海外では一味違うぞ!」ということを全世界に知らしめたのが2001年のドバイ・シーマ・クラシックである。ドバイ遠征を前にステイゴールドは日経新春杯に出走。前年の目黒記念以来、2度目となる重賞タイトルを手中に収めて意気揚々とドバイへ乗り込んだ。初の海外遠征ということで体調面、メンタル面などを心配されたが、特に大きな問題もなく万全を期してレースに挑める状態になっていた。それでも“善戦マン”という固定概念からか、彼の好走は想像できても勝利までは思いもよらなかった人がほとんどだろう。

この年のドバイ・シーマ・クラシックには前年のエミレーツ・ワールドシリーズのチャンピオンの座に就いた地元のファンタスティックライト、ドイツのGIホース・シルヴァノ、シンガポール航空国際Cを制した英国のエンドレスホール、ジャパンC2着の実績などで日本でも馴染みのある香港のインディジェナスなど、世界の一線級が参戦してきたことからGIIレース(現在はGIだが当時はGIIとして実施されていた)と言えど、間違いなくGIレースに値するメンバー構成だったと言える。

レースではエンドレスホールが主導権を奪ってスローな流れを作る中、ステイゴールドは中団よりもやや後ろ目の最内に待機。それも英国ブックメーカーのオッズで圧倒的な支持を集めていたファンタスティクライトをピッタリとマークするように追走していった。

直線に入ってファンタスティックライトが早めに動き出すも武豊はここでもジッと我慢。無理にファンタスティックライトを追いかけずにステイゴールドの脚をためてからスパートする作戦に出た。そして、満を持して武豊がステイゴールドにGOサインを出したのは残り300m地点からだ。道中は馬場の内側を走っていたステイゴールドを今度は外に持ち出して猛スパートを開始した。

ステイゴールドの末脚は強烈で、先に仕掛けて懸命に粘るファンタスティックライトとの差は見る見る縮まっていく。地元のファンからはファンタスティックライトへの声援が飛び、日本から駆けつけたファンや関係者からはステイゴールドを後押しする声が上がり、ナドアルシバ競馬場はメインレースを超えたと言っても過言でないほどヒートアップしていた。

内のファンタスティックライトか、外のステイゴールドかという熱い戦いは2頭が馬体を並べたところでピリオドが打たれ、勝敗の結果は写真判定へと委ねられる。ゴール前までは、あまりの大激戦に割れんばかりの大歓声が場内を覆っていたが、写真判定の結果を待っている間は、嵐が過ぎ去ったかのような静けさに包まれ、全ての人が固唾を飲んで結果発表を待った。

そして、再び場内に活気が戻ったのは写真判定の結果を告げるアナウンスが流れた瞬間だ。「The winner is Stay Gold!」。この勝利者コールが告げられると同時に場内は拍手喝采。泣いて抱き合う日本人観光客、吠えて喜びを表現する報道陣、満面の笑みでガッツポーズを繰り返す武豊、それを涙目で迎える関係者、まさにナドアルシバ競馬場はステイゴールドの勝利で金色一色に染めあげられたのだ。また、ファンタスティックライトを応援していた地元のファンからも純粋に勝者を称える声援が送られ、何とも清々しい風が漂っていた。

レース後、武豊が「ゴールの瞬間に勝ったと思った」とコメントしていたが、結果は数センチのハナ差での勝利。それでもこの僅差ながらの勝利は日本の競馬史で永遠に語り継がれる大きな一勝であり、世界の競馬史にもその名を確実に刻んだ勝利だったと言える。

その後、ステイゴールドはこの勝利をキッカケに日本でも大活躍してGIタイトルを取ってくれるものかと思いきや、国内ではまたまた善戦マンに逆戻り。久々に勝ったと思われた京都大賞典でも進路妨害で失格処分。最終的には香港ヴァーズで悲願のGI制覇を決めて引退することになるのだが、何故か国内のGIタイトルとは無縁に終わった。ステイゴールドらしいと言えばそれまでだが、善戦マンはあくまでも国内での話し。現在でも彼はひとたび海を渡れば「ステイゴールド=海外では無敵」という形容で語られるスーパーホースとしてその名を轟かせているのである。

[Text by Kazuhiro Kuramoto]