ドバイワールドカップ特集

 

須田鷹雄のドバイミーティング回顧

2008年のドバイワールドカップミーティング、日本調教馬の出走したレースを中心に回顧していこう。

まずはUAEダービー。イイデケンシンは押して押して先頭に。今回のメンバー構成ではこの形で見せ場を作りにいくのがベターだったと考えられ、その意味では一定の成果をあげたとも言えるだろう。

ただ、もともと力量差があるうえに、パドックで一番イレ込んでいたのがイイデケンシンだっただけに、末がもたなかったのは仕方ないところ。チャレンジ精神を讃えたい。

1、2着は大方の予想通り、マイク・デ・コック厩舎の2頭が占めた。ロイヤルヴィンテージが内をすくって先に仕掛け、オナーデビルの反応が鈍かった瞬間には前者の勝利かと思われたが、お互いギアがトップに入ってから事態は一変。オナーデビルが圧勝と言える着差で前走の雪辱を果たした。

それにしてもデ・コック厩舎のこの開催での強さには恐れ入る。やはり、馬場や開催の特徴を知っているというのは強い。日本馬もスーパーサーズデーに挑戦するなどして、経験値を積むとよりチャンスが広がるだろう。

続いて、日本馬が2頭出走したドバイ・デューティ・フリー。パドックでの印象は、アドマイヤオーラが落ち着いた中に適度の気合を見せているのに対し、ウオッカはちょっとテンションが上がっているかなという感じ。ただ、もともと持っている両馬の性格を考えると、ともに想定の範囲内である。

レースではウオッカが見せ場を作った。ゲートから押して道中は4〜5番手をキープ。これまで日本で見せていたより積極的な競馬。そのままじっくりと仕掛けるタイミングを探し、直線中ほどでは外から一瞬先頭に立つ場面もあった。その時点で日本からの応援団はボルテージ最高潮。

しかし、内ラチ沿いに粘っていた先行勢もスタミナを残していた。差し返される形で、結果は4着。それでも理屈抜きに拍手を送ることができる結果だろう。折り合いのつきやすい距離で左回り、というのが復活のヒントになるとすれば、ヴィクトリアマイルあたりでこの馬を見てみたい気がする。

アドマイヤオーラは9着と残念な結果。ただ先行勢がすべて残っている内容だし、直線進路を探してもたつく場面もあったので、勝ち馬からの着差が3馬身半という形で考えればそう悲観するべきものでもない。まだ経験の浅い馬、将来に期待したい。

勝ったのはジェイペグ。まだ一線級では足りないかと思われたが、アントン・マーカスが逃げてうまくレースの流れを握った。ウオッカに来られたときにも慌てなかったのは好騎乗。地力で勝るダルジナを抑えた価値ある1勝だ。

日本のファンにとって残念な結果になったのはヴァーミリアン。騎手も「彼になにが起こったのか分からない」とコメントしたほどの惨敗で、現地で見ている身としてもつらかった。

実力面で昨年よりも悪くなる理由はなかっただけに、レース後の状態も含めてちょっと心配だ。他馬とラチの間にはさまれる不利はあったが、そうでなくても道中から行きっぷりがおかしかったし、直線も盛り返す様子がなかった。この原稿はレース直後に書いているので、馬の状態については後日まで気にかけておきたいと思う。

一方、レースそのものはというと、カーリンの独壇場。仕掛けたわけでもないのに好位をキープし、勝負どころでは3頭併せの形で外を捲り上げた。道中先頭から最終的にも3着に粘るウェルアームドが追い通しなのに対し、カーリンは持ったまま。鞍上がゴーサインを出すと一瞬で1馬身抜け出し、そのままどんどん差を開いて7馬身3/4差をつけた。このレースではドバイミレニアム以来のインパクトのある勝ち方だった。

続いて、上記3レース以外について簡単に。

純血アラブのカハイラ・クラシックは、マジャニが4連覇を達成したかと思いきや、ミズナが外から力強く伸びて差し切り勝ち。ミズナも強い馬だが、それ以上に「競馬に絶対はない」ということを思い知らされた。

ゴドルフィン・マイルはゴドルフィンのエルーシブウォーニングが勝つかと見えて地元民が盛り上がったが、ダイヤモンドストライプスが内からするっと抜け出して一気に1馬身1/4差をつけた。3着にはなんと最低人気のドンレナト。ゴドルフィンの第一服色・ブラキャットブラキトゥンは6着だった。スーパーサーズデーも含め、デットーリ騎手の騎乗馬選択が逆を突くケースが最近多いように思うが、それはゴドルフィン所属馬に傑出したタイプがおらず、力が平準化しているせいかもしれない。

ドバイ・ゴールデン・シャヒーンは地力のあるアメリカ馬2頭の決着。負けたイディオットプルーフのフローレス騎手は「理想より早く先頭にたってしまった」とのことで、同馬の末が甘くなってくるとのと入れ替わりに勝ち馬ベニーザブルの末脚が冴えわたった。このカテゴリは他陣営がどう頑張ってもアメリカ馬が強い。

ドバイ・シーマ・クラシックは逃げたスシサン、番手に控えたウエストウインドといったところが行きたがるそぶりを見せる一方、勝ったサンクラシークはその後ろできっちり折り合った。最後は外からビバパタカもよく伸びたが、先に抜け出した馬があれだけ粘っては先頭には届かない。この勝利で、南半球における種牡馬フジキセキの人気はかなり上がることだろう。

以上、レースを回顧したが、最後にこの開催を見ての印象を。

まず、レース間の演出、イベントなどお金のかけ方が年々すごくなる一方、開催の巨大化とともに対ファン、対プレスの両方でオペレーションの不備が目立つようになった。単に金をかけても、ホスピタリティが無ければ後味は良くない。少なくとも入場者が入り口のセキュリティゲートで炎天下何時間も待たされるような事態はなくすべきだ。

同時に、馬のほうもゴドルフィンは曲がり角にきているように見える。今開催では未勝利に終わり、2、3着がひとつずつ。リテラトなど既に実績のある馬のトレードに大金を投じておいてこの結果は、ゴドルフィンにとって大きな落胆であるはず。2000年前後の栄光も過去のものになった感がある。

ただそれは一方で、遠征馬にとってチャンスが広がったということでもある。今回の結果は残念だったが、この経験を生かして日本馬は次のステップに進んでほしいし、成功している他の遠征勢を参考にしてほしいとも思う。