2006.9.27

文・写真/平松さとし

 坂路やプール、ウッドチップコースといったハード面はもちろん、一人でも馬を張って手入れ出来る洗い場、ひねり方ひとつで温度調節も自由に出来るシャワーなどなど。
 日本のトレセンにおける設備は世界でもトップクラスなのは間違いないだろう。

 そこへいくと現在、ディープインパクトの滞在するフランスはどうか?
 広大で自然に囲まれた調教コースこそ、日本を凌駕するものの、厩舎周りの設備に関しては決して優れているとは言い難い。
 たとえば、洗い場のある厩舎はまずないし、馬体重を計る体重計すら置いてある厩舎は限られている。
 しかし、そんな設備にもディープの厩務員・市川明彦が唇をかみ締めることはなかった。
「僕は日本にいる時からあまり洗い場に張るのが好きではないんです。隣の馬が暴れたり板を蹴ったりすれば、それに敏感に反応しちゃうでしょう。それに、水やお湯をかけて体を洗うと、意外と馬は体力を消耗するものなんです」

 だから、日本にいる頃から、馬体を直接手で洗うこともあったと続けた。
「もちろんフランスに来てからも毎日手洗いです」
 日本と違い湿気の少ないフランスでは、体に付着する土の量も僅かだと微笑んで言う。そして、その僅かな量の土にしても、簡単に落ちるのだ、と。
「今日はこのあたりの筋肉が固くなっているな、とか、だから少し揉んであげようかな、なんていうのも毎日、直接、手で触れているから分かる事だし、出来る事だと思います」

市川明彦厩務員


 フランスに来てからすでに40日を超えた。市川がディープに触れなかった日は、もちろん、ない。
「そしてこうやって手で触れる事は、何にも代え難いコミュニケーションになります」
 市川はこう言うと、まるで目の前にディープがいるかと思える優しい目つきを宙に投げた。
ここフランスに場所が替わっても、ディープに対する市川の思いは何も変わらない。彼は今朝も「おはよう!」とディープに声をかけた。

 

(文中敬称略)

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