ディープインパクトの挑戦

 

●世界最強馬への過酷な挑戦

 1984年のシンボリルドルフ以来、21年ぶりに無敗で牡馬クラシック3冠を達成したディープインパクト。日本競馬史上わずか2度しか達成されていない大記録であることは言うまでもないが、“日本ダービー馬”という看板がこれほど誇らしく、輝いて見えるのは久しぶりだ。と言うのも、近年の日本ダービーでの戦いは激しく、勝利と引き換えに失うものがあった。同世代の頂点に立ったはずの馬が、その後古馬になって思うような活躍ができなかったり、04年のキングカメハメハや02年のタニノギムレットのように、3歳時に故障で競走馬生命が絶たれた馬もいた。日本ダービーを勝った時点でキャリアのピークを迎えてしまう現実は、やはり寂しいものだ。

 しかし、ディープインパクトはそれを乗り越え、今ここにいる。昨年クラシックの舞台で戦ったシックスセンス、アドマイヤジャパンが故障ですでに引退してしまったことを考えると、“無事是名馬”という言葉があらためて身に染みる。そして、まるで空を飛んでいるかのような豪快かつ、華麗な走りは今年も健在。天皇賞(春)、宝塚記念で見せた圧倒的なパフォーマンスは素晴らしかった。昨年の有馬記念での傷も癒え、誰しもが認める日本最強馬に成長した。

 当世代最強のダービー馬が順調にキャリアと勝利を重ね、国内最強馬となり、世界最強馬を目指す──。ごく自然なプロセスかもしれないが、これまでの日本では当たり前のことではなかった。過去、凱旋門賞に挑戦した日本馬は、いずれも当時の日本競馬界を代表する素晴らしい名馬だったが、やはりディープインパクトはそれ以上の特別な存在。単なるダービー馬ではなく、無敗の3冠馬。そして、現在、5冠馬として世界最高峰の凱旋門賞の舞台に降り立とうとしている。これは、日本競馬界にとって非常に意義のあるチャレンジだ。サラブレッドが最も充実するといわれる4歳秋でのチャレンジということで、時期的にも最高のタイミングかもしれない。同時に、天皇賞の春秋制覇、日本の高額な賞金獲得の可能を捨ててまで参戦する、陣営の大英断は感謝に値する。

 今年のハーツクライの活躍を見れば、日本の競走馬が世界トップクラスの位置にいることは間違いない。しかし、今回の凱旋門賞はアウェイ。しかも、G1中のG1と呼ばれるビッグレース。「ハーツクライがキングジョージであれだけやれたのならば…」というような、単純な計算は成り立たない。ディープインパクトも勝ち負けになるとは限らない。厳しい見方かもしれないが、現実問題はしっかりと理解しておいた方がいい。

 まず、過去に欧州の調教馬以外で凱旋門賞を勝った馬が1頭もいないということ。遠征馬にとっては大変厳しいレースで、環境面での適応も求められる。99年に2着に好走したエルコンドルパサーは、長い期間フランスに滞在し、凱旋門賞の前に3戦使って、そこで結果を出していた。ロンシャンのコースも経験し、ローテーションもフォア賞を叩いて万全(しかし、本番は勝てなかった)。宝塚記念からの直行、休み明けで挑むディープインパクトとは大きく事情が違った。その他、ロンシャンの馬場適性や当日の馬場状態など、心配の種をあげればキリがない。ディープインパクトのサラブレッドとしてのポテンシャルは、ライバルのハリケーンランやシロッコらと互角以上かもしれない。しかし、敵は別のところにもいる。過去に凱旋門賞に挑戦したマンハッタンカフェ、タップダンスシチーの結果は、レースで自分の力を100%発揮できた結果だと言えるだろうか? 相手云々の前に、己の力を出し切ることすらも保証されない過酷なレースなのだ。

 ディープインパクトは強い。しかし、凱旋門賞は簡単ではない。これまでのような勝って当然のレースではない。マスコミの報道などは連日ヒートアップしているが、厳しい結末を受け入れる覚悟もしておかなければならない。もし勝つようなことがあれば、凱旋門賞の常識を覆し、歴史に名を残す大偉業。運命の10月1日、ディープインパクトはロンシャンの地で飛ぶことができるだろうか──。

 

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